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『ベートーヴェンを聴けば世界史がわかる』を読みました

ベートーヴェンを聴けば世界史がわかる (文春新書)

2018年83冊目の読了は、『ベートーヴェンを聴けば世界史がわかる』(著 片山杜秀/文春新書 初版2018年11月20日)です。

クラシック音楽の鑑賞は、読書とともに私の数少ない趣味のひとつ。そして歴史は好きな読書ジャンルのひとつ。ということで、何とも興味深いタイトルが目にとまり、手に取りました。著者の片山氏は政治思想史が専門の大学教授ですが、音楽評論家としても著名です。

片山氏は、芸術作品(とりわけ音楽)が作られ、保存され、鑑賞され続けるには、「受け取り手」(発注者、買い手、消費者、観客)の存在が不可欠であり、ヨーロッパにおける「受け取り手」の変遷(教会―王侯貴族―市民層)とクラシック音楽は密接な関係にあるとしています。

本書は、そのヨーロッパ社会の変遷と、教会音楽から始まり、バロック、古典派、ロマン派、印象派、現代音楽に連なる音楽史との関係を、作曲家に焦点をあてながら解き明かしたものです。

キリスト教会の権威を示し、神の秩序をあらわす道具だったという教会音楽。宗教改革によって生まれたコラール(讃美歌)とオペラ。

テレマン、バッハ、ヘンデル、同じバロック時代の作曲家でありながら活動拠点で違ってくる音楽スタイルと当時は時代錯誤的だったバッハの音楽。宮廷の衰え、市民の台頭により就職活動がうまくいかず、フリーランスの道を選んだモーツァルト。

市民という新しい聴衆に向き合い、市民のニーズに応えて、「わかりやすさ」、「うるささ」「新しさ」を追求。一般民衆層と上級市民層の両方に聴いてもらえる音楽を作ったベートーヴェン。

“よくわからない高尚な芸術”など手に届かないものに憧れる「教養市民」の登場。それと軌を一にし、居場所を求めさまようショパン、シューベルトといったロマン派の作曲家。

その手の届かないものへの渇望とナショナリズムを結び付け、ドイツ・ナショナリズムを生んだといわれるワーグナー。同様に音楽とナショナリズムを結び付けたドヴォルザークやドビュッシー。

そして20世紀。不安や不満が渦巻く現代社会の危機と真摯に向き合い、不自然で難解な“壊れた世界”を表現したシェーンベルクとストラビンスキー。

確かに、社会のあり様がその時代の音楽(作曲家)に影響を与え、音楽は社会を映し出していることがよくわかります。「歌は世につれ世は歌につれ」という言葉がクラシック音楽の世界にも当てはまるようです。

片山氏は、「今世紀にはいりクラシック音楽は居場所を減らしてきている」と語っています。分断と対立が進む混迷の時代にあって、クラシック音楽はこれから先一体どう変わっていくのだろうか、そんな思いが頭をよぎりました。

何はともあれ、ヨーロッパ社会の変遷からクラシック音楽の歴史を辿るというのは新鮮で、初めて知ったエピソードもたくさんあり、とても面白く読むことができました。

読後感(面白かった)