2020年8冊目の読書レポートは『エンド・オブ・ライフ』(著 佐々涼子/集英社インターナショナル/初版2020年2月10日)。書店で目にして、手に取りました。
著者はノンフィクションライター。2013年から6年に渡り、京都で訪問医療を行っている診療所で在宅医療の現場を取材してきました。
本書は、在宅で最期を迎える患者とその家族、在宅医療を支える医師と看護師、そして著者の母を介護する父親の姿を通して、在宅医療と終末期のあり方を考えるノンフィクション。
この診療所で働き、すい臓がんを告知された男性看護師の病に向き合う日々を追いながら、いくつかの家族の生と死をめぐる物語が穏やかに綴られています。
命の瀬戸際にいるにもかかわらず、かけがえのない思い出をつくるため、潮干狩りに行く家族とディズニーランドに行く家族。
その思いを何とか叶えようと、懸命にサポートするスタッフたち。
余命数週間のがん患者のために、自宅で開催されたハープの演奏会と、家族が手にした幸せ。
ページを繰るたび、切なさと温かさが混ざり合いながら胸に広がってきました。
そして著者の父親が、難病を患い寝たきりになってしまった妻(著者の母親)を、献身的に介護する姿も印象に残るもの。
口腔ケア、入浴、カテーテル交換、摘便…。介護技術はプロの医療関係者を上回り、著者の実家が看護師の新人研修の見学先になったほどなのですが、愛情だけではなく、身体を突き動かす信念のようなものがないと、到底できないことです。
入院した妻に対する看護師の酷い扱いに我慢ならず、涙ながらに抗議する場面は胸に迫るものがありました。
妻は亡くなってしまいますが、介護は夫婦にとって特別なものだったに違いありません。
本書で描かれているそれぞれの家族の、在宅だからこそ得られた「幸せな最期」は強く心に残るものです。
けれど在宅看護には、医療スタッフのサポートはもちろん、家族の理解は不可欠。大なり小なり負担も避けて通れません。
在宅での最期は多くの人が望むことかもしれませんが、家族のことを考えると、自分だったら病院を選びそうです。
もっとも、診療所の医師によれば「人はたいてい生きてきたように死ぬ」とのこと。
そうだとすると、「平穏な最期」を迎えるためには、迎え方をあれこれ考えるより、心穏やかに日々を過ごすことの方が大事ということになるのでしょう。
今から心がけていけば、私もまだ何とか間に合うかもしれません。