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『歩く江戸の旅人たち スポーツ史から見た「お伊勢参り」』を読みました

歩く江戸の旅人たち

2020年22冊目の読書レポートは『歩く江戸の旅人たち スポーツ史から見た「お伊勢参り」』(著 谷釜尋徳/晃洋書房/初版2020年3月30日)。書店で目にして、手に取りました。

小学生の頃、児童文学全集に収められていた『東海道中膝栗毛』を読んだことを、今でもよく覚えています。

伊勢参りの道中で繰り広げられる弥次喜多のドタバタが、よほど面白かったからでしょう。

本書は、このお伊勢参りをテーマに、江戸時代の“徒歩旅行”の様子を、著者の専門であるスポーツ史の視点からひも解くもの。

書き残された旅日記を詳しく分析し、また数多くの文献や資料をもとに、旅のルートと歩行距離、当時の日本人の歩き方、旅の必須アイテム(「杖」「棒」「草鞋」)の使い方や調達方法、旅の家計簿、そして交通インフラや旅のマナーなどについて明らかにしています。

1830年、文政のお陰参りでは、427万人もの人々(庶民の六人に一人)が伊勢参宮を行ったこと。

伊勢参宮だけが目的でなく、さらに足を延ばして“日本周遊旅行”を楽しんだこと。(東北地方の人であれば、近畿の観光地周回、四国延長、富士登山の3パターンがあったようです)

旅は数か月、総歩行距離は2千キロ以上に及び、一日34,5キロを、10時間くらいかけて歩いていたこと。

江戸からの伊勢参りだけでも、四両(現代感覚で120万円)もの大金が必要であり、その調達に「講」が大きな役割を果たしたこと。

一里塚、道標、並木といった交通インフラや、貨幣経済の浸透が、江戸時代の旅を支えたこと。

旅にまつわる様々な話は初めて知るもので、興味深いものばかり。

信仰を背景にしているとはいえ、メッカ巡礼のような厳格さはなく、庶民が観光旅行を楽しんでいる姿はとても印象的でした。

お金の工面はともかくとして、それだけ当時の日本は平和な世の中であり、精神的なゆとりもあったのだろうと思います。

ところで、面白かったのは日本人の歩き方の話。

右手右足と左手左足を同時に出す“ナンバ歩き” は良く知られていますが、本書によると、幕末から明治初期、西洋人からすると、日本人は足を引き摺り、音を立て、爪先で、前傾姿勢で、女性は小股・内股で歩いていて、“奇妙な動作”に見えたようです。

現代人の歩き方とは似ても似つかないもので、実際どんな格好で歩いていたのか、時間を遡りこの目で見たくなりました。