(ブックデザイン 松田行正)
2020年33冊目の読書レポートは『にほん的 それは、ジミでハデなこと』(著 松田行正/河出書房新社/初版2020年5月20日)。
先月読んだ『〈美しい本〉の文化史 装幀百十年の系譜』(著 臼田捷治)で、著者の名前を知り、それがきっかけで本書を手に取りました。
著者は、グラフィック・デザイナーであり、ブックデザイナー。その一方で著書を多数執筆し、「牛若丸」という出版社も主宰しています。
本書は、著者による日本文化論。漢字一文字の“キーワード”を視点として、日本文化の深層を探っていくものです。
そのキーワードは、「動」、「奥」、「触」、「律」、「影」、「余」、「結」、「周」、「張」、「縦」の10文字(本書は10章で構成)。
「動」では絵画における運動表現、「奥」では日本文化における“奥” の持つ意味、「触」では紙の手触りと利休の手触り、「律」では五七調のリズム・テンポ感、「影」では浮世絵の平面絵画と影の関係、「余」では日本文化に欠かせない“間”のこと、「結」では“結び”の哲学、「周」では周縁を重視する表現、「張」では近景と遠景による表現の強弱、そして「縦」では文字の組み方について考察。
西洋文化との対比も行いながら、著者ならではの見方で、日本文化の特徴を明らかにしていきます。
文化論などというと、堅苦しい印象もありますが、本書はそれとは無縁。
数多くの図版や写真とともに繰り出されるバラエティに富んだ話は、どれも興味深く、頭を刺激するものです。
その中で特に心に残ったのが、再三登場する西洋の“垂直思考”と日本の“水平思考”について。
縦と横の違いが、それぞれの文化や生活様式に色濃く反映しているというのは、まさに“目から鱗”。「なるほど」と頷いてしまいます。
また、松岡正剛さんの著者『日本文化の核心「ジャパン・スタイル」を読み解く』で知った日本文化における「ひらがな」の重要性が、本書でも登場。
「ひらがななくして日本文化はない」ということを、改めて思い知りました。
一方、私自身ようやくイメージがつかめたのが、日本文化の特色だとされる「間」や「余白」について。
日本絵画・浮世絵と西洋絵画を比較しながらの説明は、美術に疎い私でも理解しやすかったのですが、「クローズアップによりトリミングされた風景(点景)が、日本のミニュチュア志向につながっている」というのは、思いがけない指摘でした。
ところで、話の本筋とは違いますが、「結」の章を読んで謎が解けたのが、世界保健機構(WHO)のマークに描かれた蛇の意味。
事務局長の“コロナ会見”を見ていて、なぜ蛇なのか、ずっと気になっていたのですが、西洋では、蛇は再生のイメージがあり、多くの国で救急のマークとして使われているとのこと。
所変われば品変わるとはいえ、日本ではまず考えられません。
そして、本書のブックデザインはもちろん著者自身によるもの。
赤いカバーに浮かぶ白の水玉は目に鮮やか。表紙には本書に登場する信貴山縁起絵巻の「剣の護法童子」が配されているのですが、小口にまで描かれているのは意表をつくもので、感心するしかありませんでした。


表紙の「剣の護法童子」 小口の「剣の護法童子」