2020年42冊目の読書レポートは『音楽の肖像』(著 堀内誠一 谷川俊太郎/小学館/装丁 中嶋香織/初版2020年11月4日)。書店で目にして手に取りました。
クラシック音楽の鑑賞は、私の数少ない趣味のひとつ。ただし、作曲家の名前や代表的な曲名は知っていても、作曲家その人については、詳しくありません。
本書は、グラフィックデザイナーで絵本作家でもあった堀内誠一さんが遺した作曲家28人の肖像とエッセイに、それぞれの作曲家にちなんだ谷川俊太郎さんの詩を収めた一冊。
肖像画といっても、学校の音楽室に貼られていたようなものではなく、ヤマハのPR誌『ピアノの本』の表紙を飾った彩り豊かな絵で、作曲家のイメージによくあったもの。
エッセイは、作曲家の人となりを思い起こさせる楽しいもので、読んでいるうちにメロディーが聞こえてくるよう。
そして、谷川さんの詩は、音楽への思いがこもった心に響くもの。
何ともいえない味わい深い本で、1ページ、1ページゆっくりと、丁寧に読み進むことになりました。
肖像画、エッセイ、詩。どれも印象的でしたが、肖像画で気に入ったのは、「ガーシュイン」の横顔、「シューベルト」の思いに耽る後ろ姿、そして「バッハ」と子どもたち。
なかでもバッハは異色で、“音楽の父”の名にふさわしいお父さんぶりは微笑ましいものです。
(P57 ジョージ・ガーシュイン)
(P65 フランツ・シューベルト)
(P93 ヨハン・セバスチャン・バッハ)
一方、谷川さんが紡ぐ深い言葉も心をとらえ、静かに広がって行きます。
例えば、《ヒトは皆それぞれに自分の音を持っていて/気づかずに互いに響き合っている/音楽は哀しみと苦しみに学ぶ/喜びにそして言葉を拒む沈黙に学ぶ/見えない時の動きと鼓動をともにして》(P90『今此処の私のために』から)
本書にふさわしい、音楽の根源を照らすような一節。
クラシック音楽に限らず、人間の営みから音楽が消えてしまったら、人生は無味乾燥なものになるに違いありません。
それにしても、素敵な本に出会いました。