えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『福島第一原発事故の「真実」』を読みました。

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2021年19冊目の読書レポートは『福島第一原発事故の「真実」』(著 NHKメルトダウン取材班/講談社/初版2021年2月25日)。書店で目にして手に取りました。

先頃、福島原発で発生する処理水の海洋放出が決定され、国内外で議論を呼びました。

ただ、福島第一原発の事故から10年が経ち、原発問題に対する関心は薄れがちで、脱原発の気運もしぼんでいる感じです。

本書は、NHKのドキュメンタリー番組『NHKスペシャル「メルトダウン」シリーズ』を再構成し、700ページを超えるボリュームでまとめたノンフィクション。

まず第1部で、原発事故の全貌をドキュメンタリー風に再現。

続く第2部で、数多くの関係者や専門家への取材、独自の調査や実験、AIによるデータ解析など、10年にわたり行われた幅広い検証取材を通して、原発事故の真相が明らかにされています。

原発事故については、事故後に知った吉田昌郎所長と作業員たちの苦闘が、強く心に残っていますが、事故原因については、「津波による電源喪失が引き鉄になった」程度の認識しかありませんでした。

それだけに、非常時の原子炉冷却装置「イソコン」が、40年以上動かされておらず、それが現場の経験・知識不足につながり、事故対応を困難にしたこと。

東京電力幹部の指示を無視した、吉田所長の「海水注入の継続」は、“英断” と評されたが、海水は原子炉に届いておらず、原子炉の冷却にほとんど寄与しなかったこと。

テレビ会議での発言をAI分析したところ、吉田所長の疲労は極限状態にあったこと…。

科学的な知見や証言などをもとに究明されていく事実は、私には専門的過ぎるものもありましたが、どれも興味深く、驚きもしました。

ただ最も考えさせられたのは、東日本大震災が起きるまでに、巨大津波に備えるチャンスが4回もありながら、東京電力は社内事情のために、それを生かせなかった一方で、日本原電や中部電力は津波対策を独自に進めていたこと。

さらに、東京電力の目を気にするあまり、それを公にすることはなく、津波対策が業界全体に広まらなかったというのも、俄かに信じがたいことでした。

東京電力の元幹部の話では、非常用電源を高いところに置くくらいのことに、それほどお金はかからないそうです。

だとすれば、リスクと真剣に向き合いさえすれば、これほどの深刻な事態に至らなかった可能性は十分あり、返す返す残念でなりません。

本書によれば、原発事故の最悪シナリオである「東日本壊滅」を回避できたのは、いくつかの偶然や注水の失敗が幸いしたから。

ひとつ間違えば、今首都圏には人が住んでいないかもしれず、それを考えるとぞっとします。

「安全神話」は所詮フィクションで、根拠のないもの。
原発の運転員の語った、「原子炉は手放し運転。手出しできず、状況が変わっても何もできない。何もわからない。手に負えない、コントロールできない怖さを感じました」という言葉が、今でも頭から離れません。