えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『万引き 犯人像からみえる社会の陰』を読みました。

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2021年22冊目の読書レポートは『万引き 犯人像からみえる社会の陰』(著 伊東ゆう/青弓社/装丁 神田昇和/初版2021年5月20日)。書店で目にして手に取りました。

著者は、1999年から20年以上にわたり、5千人以上の万引き犯を捕まえてきた現役の保安員(万引きGメン)。是枝裕和監督の映画『万引き家族』の製作にも協力したそうです。

本書は、その著者が自ら体験した、万引き現場の生々しい実態を明らかにしたもの。

万引き常習犯、飲食店の店主、万引き家族、ホームレス、外国人、店舗の従業員、女性、少年・少女たち…。

様々な万引き犯の驚くべき手口や犯行動機、捕まったときの様子が、写真も交えて、つぶさに紹介されています。

万引きというと、「出来心」という言葉が思い浮かびますが、本書に登場するケースの大半は確信犯。

手口は巧妙かつ大胆で、動機は自分勝手。転売目的の犯行もあり、言葉のイメージとはかけ離れています。

さらに、捕まえられた万引き犯の多くはすぐに事実を認めず、言い逃れ、居直りは当たり前。

逆切れしたり、なかには、色仕掛けで見逃してもらおうと迫る女性までいたり、万引き現場の凄まじさは相当なものです。

一方、レジ袋の有料化がエコバックを使った万引きを増やし、コロナが失業者や飲食店主の万引きを増やした。摂食障害や認知症などを理由に言い訳する被疑者が増えたといった話は、時代を映すもの。

業界によっては、万引き被害より内引き被害(内部不正)が深刻という話にも驚きましたが、万引きした商品の買い取りに“ポイント”を使おうとする犯人には、さすがにあきれてしまいました。

関係者が「いいかげんにしろ」と言いたくなる気持ちはよくわかります。

万引きの現場を長く目撃してきた著者は、殺伐とした社会の雰囲気に、いやけがさす思いを抱き、「この国の治安や生活水準は間違いなく悪化していて、この先の社会情勢が不安でならない」と語っています。

最前線で万引き犯と闘っているだけに、その言葉は重く響き、犯罪を生み出している社会の傷がいかに大きく、深いものか、思い知ることになりました。