2021年25冊目の読書レポートは『「太平洋の巨鷲」山本五十六 用兵思想からみた真価』(著 大木毅/角川新書/初版2021年7月10日)。テーマと著者にひかれて手に取りました。
山本五十六は、私の出身地新潟県を代表する歴史的人物。その名前には特別な響きを感じます。
本書は、ベストセラーとなった『独ソ戦』(岩波新書)を執筆した著者が、これまでの山本に関する書物と一線を画し、軍事史的分析をもとに“軍人、もしくは用兵思想家としての山本”を論じたもの。
数多くの文献を精査し、前半では、山本の生い立ちに始まり、海軍次官に至るまでのキャリアをたどりながら、山本の言動について、政治的・軍事的背景や真意を考察。
後半では、連合艦隊司令長官時代の作戦指導について検討したうえで、「戦略」、「作戦」、「戦術」三次元における指揮能力と統率力を評価し、軍人・山本五十六の姿を明らかにしていきます。
著者によれば、山本の「戦術」次元の能力は、判断材料に乏しく未知数。
「作戦」次元の能力は、山本の最高傑作である真珠湾攻撃を除けば、平凡、またはそれ以下としていて、なかなか手厳しいもの。
一方、航空総力戦の予想、三国同盟の洞察、対米戦争の認識や構想など「戦略」次元の能力は高く評価。
山本は、“卓越した識見と決断を示した戦略家・用兵思想家”であったと結論づけています。
山本に対しては様々な見方があり、太平洋戦争についても数々の論評がある中で、果たして著者の考えが受け入れられるのか,、私にはわかりません。
けれど、山本の生涯を追いながら、具体的な事実をもとに、客観的に下された著者の評価は説得力十分。
少なくとも、これまでの“山本論”に一石を投じたことは、間違いないはずです。
ところで、本書で興味深かったのが、著者が欠点と指摘した山本の「無口」について。
「心を許した少数の者だけにしか本心を明かさない」、「自分の方針を説明せず、以心伝心で理解されることを期待する」。
この“悪癖”のために、指揮上の錯誤をも招いてしまったと問題視する一方で、「怜悧なる頭には閉じたる口あり」という山本の言葉を引用し、「無口はある種の知恵と考えていた節がある」とも語っています。
ただ、昔から「無口」「口下手」は、新潟県の県民性だとよく言われているもの。
もちろん、そうでない人もいますし、そもそも風土や歴史が気質と関係するのかはっきりしません。
それでも、山本が無口だったということを知り、問題は大有りだったかもしれませんが、「やっぱり新潟県人だと」思わずいられませんでした。
立場や環境が変わっても、人の性分は、そう簡単に変わるものではありません。