えむと、メモランダム

読み散らした本と出来事あれこれ

『常識のない喫茶店』を読みました。

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2021年33冊目の読書レポートは『常識のない喫茶店』(著 僕のマリ/柏書房/装丁木庭貴信+岩本萌/初版2021年9月25日)。

話題の本ということで手に取りました。ユニークなペンネームが印象的ですが、表紙の装画も目を引きます。

本書は、著者が働いていた「常識のない”喫茶店」での出来事や体験を綴ったエッセイ。

“常識のない”というのは、「失礼なお客さんとは喧嘩してもいい」というルールがあるからで、日本の接客業では、間違いなく“非常識”です。

こんなルールがあるのは、このお店のマスターが“常識的”だから。

「やさしい人しか雇わない」、「お客様にも、従業員にも、業者の方にも思いやりを忘れてはならない」、「働いている人に失礼な態度をとる人はお客様ではない」という考えの持ち主で、「店員もお客様も対等な関係であること」を大切にしているとのことです。

本書で描かれているのは、傍若無人、クレーマー、セクハラ、モラハラ…。お店を訪れる様々な迷惑客とそれに決然と立ち向かう従業員の姿。

そして、その一方で“神のような”お客さんや、頼りになる同僚たちも登場し、個性的なお店の日常を垣間見ることができます。

本書の帯には、「溜飲下がりまくりのお仕事エッセイ」のキャッチコピーがありますが、確かに、とんでもない客にひるむことなく、「出禁」を言い渡す場面は小気味いいものです。

けれど快哉を叫ぶ人がたくさんいるということは、接客業に限らず、客の言うことには逆らえず、過剰なサービスを当たり前のように求められ、ときに自分を殺すことも強いられ、その息苦しさに苦しんでいる人も、たくさんいるということでしょう。

著者は、そんな苦しさに耐え切れず、精神的に追い詰められ、新卒で入社した会社を二年で退社してしまいます。

ところが、たまたまこの喫茶店で働くようになって、自分自身を回復。「自分の気持ちに正直になることで、自分という存在を肯定できるようになった」と強くなった自分を自覚し、「これから先、どんなことがあろうとも、この店で働いて日々を思い出せば、自分らしく生きていける気がする」とまで語っています。

“非常識”といわれる喫茶店で働いたおかげで、人間としての尊厳を取り戻す。 世の中の“常識”とは一体何なのだろうと考えてしまいます。

昨今、誰もが生きやすい社会をつくるため、多様性が重視されるようになり、ジェンダー平等が盛んに言われるようになりました。

それが大事なことは言うまでもありませんが、本書を読んで、「お客様は神様」という考えを捨てることも、生きやすい社会には必要だということを実感しました。