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『古代中国の24時間 秦漢時代の衣食住から性愛まで』を読みました。

古代中国の24時間 秦漢時代の衣食住から性愛まで (中公新書)

2021年35冊目の読書レポートは『古代中国の24時間 秦漢時代の衣食住から性愛まで』(著 柿沼陽平/中公新書/初版2021年11月25日)。書店で目にして手に取りました。

本書は、中国古代史・経済史・貨幣史の専門家で、早稲田大学文学学術院教授の著者が、古代中国(秦漢時代)に生きた人びとの、日常生活の様子を明らかにするもの。

著者によって、膨大な史料から拾い上げられた「無名の民」に関する記述をもとに、木簡・土器・陶器といった出土資料も紹介しながら、人びとの暮らしぶりを再現していきます。

ただし、切り口はユニークで、「読者が古代中国にタイムスリップし、あちこちを歩きながら一日24時間を過ごす」という設定。

読者は、まず名前を考え、予備知識を授けてもらい、夜明けの風景を眺めた後、朝起きてから(午前6時頃)、夜寝るまで(午後7時頃)、秦漢時代の生活を見聞することになります。

古代中国の歴史といえば、王朝の興亡や英雄たちの活躍が定番。それだけに、本書に登場する日常風景は、初めて知ることばかり。

虫歯や抜け毛にも悩まされ、都市の“お嬢様”はお化粧に余念がなく、上流階級の人びとはよく肉を食べ、食事は正座。

新しいクツを買うときは試し履きをし、女性は既婚・未婚関係なく、通りを歩くイケメンに歓声をあげる。

この時代も格差は親から子に再生産。お役所はエリートの住む世界のはずなのに、その息苦しさを嘆く官吏。

男女の恋は道ばたでのナンパがきっかけ。結婚前には占いが必須で、婚礼には結納・披露宴と多額の費用がかかり、子孫を残すのは最大の親孝行。

酒を飲むのは、現代と同様、晩酌、市場の酒屋、官吏や金持ちは高級料亭。宴会は夕方から日没までで、宴席にはルール(酒令)があり、上司のアルコール・ハラスメントには要注意。

トイレは和式が多く、ふつうは男女共用。都市の公衆トイレは個室でないことも。

夜の歓楽街は芸妓や金持ちの男性で賑わい、この時代でもキスは愛情表現のひとつ。

人びとの価値観はすでに多様化。地域のもめごとがあり、嫁姑関係に悩み、倦怠期や浮気が原因で夫婦関係が危うくなるのは今と同じ。

湯浴みの場所はトイレのすぐそばにあり、寝る前に湯浴みをしたものの、臭くてリラックスは無理……。

とにかく、書き出したら切りがないほど面白い話の連続。古代中国の日常生活が事細かに描かれ、2千年前の人びとの息づかいが伝わってきますが、時代は違っても、今の私たちの世界とあまり変わらないことがよくわかります。

著者は、「“英雄”だけが時代をつくりだすのではなく、英雄の活躍には“無名の民”の支えがあり、そうした人びとこそが、各時代・各地域の社会を下支えしている」と語っています。

歴史のテーマといえば、政治・経済・文化の変遷や、時代を代表する人物ということになりますが、本書を読んで、連綿と続く日々の営みこそが歴史をつくってきたのだと、改めて思い知りました。