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『ルポ 死刑 法務省がひた隠す極刑のリアル』を読みました。

ルポ 死刑 法務省がひた隠す極刑のリアル (幻冬舎新書)

2021年36冊目の読書レポートは『ルポ 死刑 法務省がひた隠す極刑のリアル』(著 佐藤大介/幻冬舎新書/初版2021年11月25日)。書店で目にして手に取りました。

今月21日、3人の死刑囚に刑が執行されました。2年ぶりとのことですが、本書を読んでいなければ、気に留めることはなかったかもしれません。

本書は、共同通信社で論説委員を務める著者が、日本の死刑制度の実態に迫ったルポルタージュ。

2016年に刊行された『ドキュメント 死刑に直面する人たち~肉声から見た実態』(岩波書店)に追加取材の内容を加筆したものです。

本書では、まず拘置所での死刑囚の日常と心境を紹介し、死刑執行の模様を再現。

次に、元死刑囚とその母親、死刑から無期懲役に減刑となった受刑者、さらに被害者遺族の思いを描写。

そして、絞首刑の問題点、死刑制度に対する世論や死刑廃止運動の動向、また海外の状況について言及。

弁護士、法務省関係者、元刑務官、教誨師などへの取材も行い、死刑制度の全貌を明らかにするとともに、死刑制度の存否について、問題提起をしています。

これまで、死刑制度について議論があることは知っていても、議論の背景に何があるのか、深く考えたことはありませんでした。

それだけに、本書で知った様々な事実は考えさせられるものばかり。

絞首刑は憲法で禁じられている「残虐な刑罰」にあたるという主張は根強く、刑務官といえども執行するときの心理的負担は大きいこと。

絞首刑は明治6年の「太政官布告」が根拠で、150年間、法整備が放置されていること。

被害者遺族のすべてが、「犯人は死をもって償うべき」と考えているわけではないこと。

国際社会では死刑廃止の潮流が加速していくなか、日本の「死刑モンロー主義」は限界に達していること…。

そこには、死刑制度はもちろん、絞首刑を続ける意義はなかなか見出せません。

特に昨今、死刑になりたくて殺人事件を起こす者が現れるようになり、考え過ぎかもしれませんが、死刑制度が殺人事件の引き鉄にならないか心配にもなります。

けれど一方で、被害者遺族の怒りや、やり切れないは思いは理解できるもので、「死んで償ってほしい」という言葉に異を唱えるのは、難しいことです。

また、死刑に替えて終身刑を導入するという意見には、「終身刑こそ残酷」という主張があることを知り、「罪を償う」とはどういうことなのか、考え込んでしまいました。

ただ気になるのは、日本では長い間、死刑制度を容認する人が多数を占めていること。

被害者遺族の心情を思う人や、凶悪犯罪の抑止につながると考える人が多いからですが、本書で指摘されているように、法務省は死刑に関する情報公開に消極的。

死刑制度の何が問題なのか、知らない人が多いことも影響していそうです。

日本は、人権侵害を行う国々を厳しく批判します。だとしたら、人権問題に関係する死刑制度についての議論は避けて通れません。

そのためには、情報をもっとオープンにし、死刑制度の実態を世の中に知らしめることが必要でしょう。

そうすれば、国民の意識にも変化が起きると思えてなりません。