えむと、メモランダム

読み散らした本と出来事あれこれ

『俳句と人間』を読みました。

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読書ノート2022年No.5は、『俳句と人間』(著者 長谷川 櫂/岩波新書/初版2022年1月20日)

俳句や短歌に関係する本を手にするたびに、「自分も作ってみたい」と思うのですが、いつもそこで終わってしまい、なかなか先に進みません。

本書は、月刊『図書』(岩波書店)の連載エッセイをまとめたもの。

著者が高名な俳人なので、タイトルからすると俳句がメインテーマのようですが、俳句に留まらず、古今の詩歌や文学を取り上げ、自身の癌宣告をきっかけに考えた「人間の生と死」や「今の社会」への思いが綴られています。

正岡子規と夏目漱石の人生から“時代の空気” について、大和言葉から日本人の死生観について、ダンテの『神曲』から“天国と地獄”について考え、空海・西行・平家物語から魂の消滅について思い澄ます。

さらに、上皇陛下の言葉から民主主義の躓きについて、徒然草から現代日本の有り様ついて話は及び、そして芭蕉の人生観「かるみ」について紐解き、死のあり方を問いかける。

著者の深い造詣に裏打ちされた話は、どれも含蓄があり、心をつかんで離しません。

「仏教伝来前の日本では、死者の魂は極楽や地獄には行かず、渚や山に行って、子孫や里人の暮らしを見守った。」

「天国と地獄は言葉を使う人間の大発明で、権力者が現実の不条理を覆い隠して今の世界を維持するための装置だった。」

「人類の文化とは、避けがたい死とどう共存するか、死とどう付き合えばいいか、長い歳月をかけて培ってきたその様式の積み重ねにほかならない。」

「人間が死におののくのは、肉体と意識の消滅により、ふたたび宇宙の闇に吞み込まれ、無のなかへ消えてゆくことがこわいから。」

「言葉という想像力の翼を得て人間は生死の境を超えてしまった。人間は、前世や来世というフィクション(幻想)をたっぷりと含んだ世界で生きている。」…。

印象的な言葉が次から次に寄せてきますが、特に心に残ったのは、芭蕉の『旅に病で夢は枯野を駆け回る』を示し、「最後の最後まで悩みつづける。人間であるかぎり安らかな死などない」と断じた言葉。

死は必ず訪れるものであり、誰しも「安らかに死にたい」と願います。けれど、それが逆に自分の心をかき乱し、あれやこれや思い悩む原因になっているのかもしれません。

「安らかな死などない」というのは物騒な気がしますが、本来そういうものだと思えば、逆に心は軽くなり、生き方も変わってきそうです。