読後ノート2022年No.7は、『ぼくとがんの7年』(著者 松永正訓/医学書院/初版2021年12月15日/装幀 松田行正+ 杉本聖士)
書評サイト「HONZ」で知って手に取りました。
著者は、小児がんを専門とする小児外科医。「売れない物書き」とご自身で語っているように、本も数多く執筆されています。
本書は、2015年に膀胱がんと診断され、2回の再発と3回の手術を体験した松永医師の7年に渡る闘病記。
検査や手術、治療の様子を詳しく記す一方で、術後の痛みと合併症に苦しみ、死の影に怯え、うつ状態になるほど思い悩む姿が、ありのまま綴られています。
医師らしい客観的な目。不安、期待、落胆、喜びが入り混じった心の動き。そのギャップに目を引かれましたが、何より印象に残ったのは、がんについて知識も深く、多くの子供たちを治療してきた医師であっても、いざ自分が患者になってしまうと、冷静ではいられなくなること。
クリニックの運営や家族のことが心配になって、寝床でお祈りをする。担当医の言葉に過敏に反応して、余計なことを考えてしまう。頭の中が、がんのことでいっぱいになり、無口になる。様々なストレスが原因で過換気症候群になってしまう。痛みのある検査を嫌がり、体の不調を別の病気と結び付ける。
がんの宣告を受けたら、誰だって平常心ではいられないはずですが、医者だからこそ余計に悩みが深まったのかもしれません。
松永医師によれば、いろいろなことを心配し過ぎてうつ状態になったのは、人が死に際して襲われる四つの苦痛―社会的苦痛、心理的苦痛、身体的苦痛、スピリチュアルな苦痛―を味わったから。
そして、それを乗り越えられたのは、奥様の存在と、自己との対話を繰り返したから。
死に対し目をつむり、逃げようとしたこともあったそうですが、やがて「自分の死を冷静に見つめ、死について落ち着いて考えるようになった」と語っています。
もちろん、人それぞれ年齢や立場が違うので、誰もが同じような心境になるとは限りません。
ただ、痛みや苦しみに寄り添ってくれる人が、一人でもいれば、痛みの感じ方も、不安や恐れとの向き合い方も違ってくるでしょう。
松永医師は、がんで悩む人に対し、「発想を変える」ことを勧めています。
執着を捨てる。悩むことを当たり前と考える。それはがん患者に限らず、人生を楽に生きていくためのコツだともいえそうです。