えむと、メモランダム

読み散らした本と出来事あれこれ

『東京大空襲の戦後史』を読みました。

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読後ノート2022年No.9は、『東京大空襲の戦後史』(著者 栗原俊雄/岩波新書/初版2022年2月18日)

著者は、毎日新聞の新聞記者ですが、日本の戦争責任や戦後賠償に関する著書も数多く執筆しています。

私もこれまで、『遺骨 戦没者三一〇万人の戦後史』(岩波新書)、『特攻 戦争と日本人』(中公新書)、『シベリア抑留 最後の帰還者 家族をつないだ52通のハガキ』(角川新書)を読みました。

本書は、東京大空襲の被害者救済の闘いを通して、日本の「戦後」について考えるもの。

空襲被害者の苦難の人生とともに、戦後補償裁判と被害救済のための立法運動の推移を記し、戦争被害を民間人に押し付けたままの「未完の戦争」の事実を明らかにしています。

本書によれば、戦後、戦争被害の賠償を求める裁判が何度か起こされたものの、「戦争被害は国民のひとしく耐え忍ぶもの」とする“戦争被害受任論”と、被害は認めながら、「補償の内容は国会が決めるべきもの」とする“立法裁量論”によって切り捨て。

一方政府は、「軍人や軍属は国が雇用していたから援護・補償の対象だが、雇用していない民間人は補償の対象ではない」という“雇用保障論”の立場。

東京大空襲の訴訟でも原告は敗訴しますが、原告団は、「全国空襲被害者連絡協議会」を結成し、立法による救済を目指す活動を開始。

立法を目ざす議員連盟も発足して議論が進む中、議員立法で「救済法案」が作られ、2021年の通常国会で提出の手前まで行きます。

ところが、政府・自民党は「戦後補償問題は解決済み」という立場を崩さず、また「他の補償問題に波及する」という懸念から、法案の提出は見送られ、しかも議員連盟の中心であった自民党の河村建夫・元官房長官は政界を引退。

結局、空襲被害は救済されることなく、行政、司法、立法から見放された状態が今も続いています。

空襲被害者の味わった辛苦は胸に迫るもの。戦後77年経っても、その苦しみが消えていないことに心が痛みます。

国が戦争責任を認め、戦争被害にしっかり向き合い、せめて謝罪でもあれば、裁判など起こすこともなかったかもしれません。

けれど、戦争責任は曖昧のまま、軍人・軍属には補償がある一方で、民間人は我慢。そして、同じ爆弾なのに原爆だけは「特別」で民間人も補償。

これでは、被害者でなくても「不条理」だという思いが募ってきます。

本書によれば、戦勝国のイギリスやフランスだけでなく、敗戦国のドイツも民間人の戦争被害に対し補償を行っているそうです。

戦争のけじめをつけないどころか、「民間人の戦争被害は補償しなくてもいい」という理屈がまかり通れば、誰も責任を取らない戦争が、再び起きてもおかしくはありません。

でもそれは絶対に許されないことであり、あってはならないことです。

「このままでは、日本の歴史に取返しのつかない汚点が記されてしまうだろう」という著者の言葉を噛み締めました。