読後ノート2022年No.10は、『ネットで故人の声を聴け 死にゆく人々の本音』(著者 古田雄介/光文社新書/初版2022年3月30日)
このブログを始めて5年目になりますが、「自分が死んだらどうなるのか」なんて、考えたこともありません。
本書は、『東洋経済オンライン』の連載記事を加筆修正し、まとめたもの。
「デジタル遺品」に詳しい著者が、すでに亡くなった人、亡くなったと思われる人のホームページやブログを紹介し、取材した関係者の話も交えて、故人の思いに迫っていく異色のルポルタージュです。
著者は、4千件の「故人サイト」を定期巡回しているそうですが、本書に登場するのは15人のサイト。
白血病の高校性。希少がんの大学生。スキルス胃がんのシングルマザー。筋ジストロフィーの男性。転移性脳腫瘍の空手家ベーシスト。肺がんの医師。大腸がんの書店店主…。
多くは闘病ブログですが、自殺ブログや糖尿病サイト、84歳から94歳で亡くなるまでほぼ毎日投稿が続いたおばあさんのブログなども紹介されています。
日記と違い、ブログやSNSはハンドル名で書いたとしても、人から読まれることが前提。書かれていることが真意だとは言い切れません。
けれど、死の影を感じながら生きていく人の言葉は、たとえハンドル名であっても、心の奥底から発せられるもの。
生きる意味を考え、自分を襲った運命を嘆き、残される家族を思う一方で、気力をふりしぼり何とか病を乗り越えようとし、前を向いて生きた証を残そうとする。
嘘偽りのない心情の吐露に、心は揺さぶられます。
ただ本書で一番印象に残ったのは、行きずりの男に娘を刺殺された父親が、犯人の情報入手のために立ち上げたブログ。
2005年に最初の記事をアップし、2018年に犯人が逮捕された後も、更新が続いているそうです。
事件を風化させないために、13年以上も書き続けてきた執念と、事件が解決してからも、ブログの中で娘との時間を共有し続ける父親の思いは、同じ親として胸に迫るものがありました。
本書で著者と対談している折田明子・関東学院大学教授は、「亡くなった人との関係を保持しながら亡くなった人とともに前に進んでいく。墓前に語りかけるのと同じように、訪れたら故人との絆が感じられる。そういう効果が故人のサイトにはある」と語っています。
管理者がいなくなったサイトは、生き残るのが難しいようですが、お墓代わりになるのであれば、私もこのブログのことを言い残して、この世を去るのも悪くないかもしれません。
もちろん、家族に墓参りする気があればの話ですが。