えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『鎌倉幕府抗争史 御家人間抗争の二十七年』を読みました。

読書ノート2022年No.17は、『鎌倉幕府抗争史 御家人間抗争の二十七年』(著 細川重男/光文社新書/初版2022年7月30日)

今年の大河ドラマは『鎌倉殿の13人』。まったく馴染みのない北条義時が主人公とあって、いつものように、「いつのまにか見たり、見なかったり」になりそうな予感がありました。

ところが、その予想は大はずれ。今では日曜日はもちろん、土曜日の再放送も楽しむほどです。

役者さんたちの個性的な演技も光っていますが、何といっても、三谷幸喜さんの脚本が抜群に面白く、今更ながらドラマは脚本次第だと思い知らされます。

本書は、歴史学者である著者が、源頼朝の死後27年に渡る、御家人同士の「抗争」を描いたもの。

大河ドラマのテーマにも重なりますが、歴史書や文献などをもとに、御家人たちが繰り広げた「仁義なき戦い」の顛末を明らかにし、武士と鎌倉幕府の本質にも迫っていきます。

登場する抗争は、安達景盛討伐未遂事件に始まり、梶原景時事件、比企の乱、源頼家殺害、和田合戦、源実朝殺害など。

すでに大河ドラマに出てきた事件もあり、放送された場面を思い出しながら読んでいたのですが、それにしても、頼朝亡き後に繰り返された「食うか食われるか」の御家人同士の争いは凄まじく、驚かされます。

著者によれば、御家人間抗争の直接の原因は、源頼朝が亡くなったうえに、梶原景時事件をきっかけに疑心暗鬼が生まれ、政権が動揺したこと。

ただその根底には、「私的武力集団」(武士団)の集合体であり、それ自体が巨大な私的武力集団でもある鎌倉幕府の本質と、戦うこと(=殺人)を存在意義とする、武士団を構成する武士の存在があるとのことです。

その武士たちが理想とするのは、「勇敢な武勇の人であり、かつ信義を重んじ、強者にへつらわず、我が身を顧みず人の苦難に赴く」という<兵(つわもの)の道>。

いかにも武士らしいですが、理想とは裏腹に、相手を倒せば、土地の配分といった実利がついてくるため、道義より損得を考えて動くこともあったはず。

著者は武士団とマフィアと同じだと言いますが、一族・郎党のためなら、暴力行使や殺人も厭わないというのは、「やくざ一家」とも変わらないかもしれません。

それにしても、ここぞという大事な場面で、「兵(つわもの)」たちに影響力を行使する北条政子の存在は目を引きます。

頼朝の御台所というステータスだけでなく、人を従えるカリスマ性も備えていたに違いなく、「尼将軍」とはよく言ったものだと思います。

ところで、著者の描く北条時政のイメージは、「有能だが単純で気の良い田舎親父」。『鎌倉殿の13人』で時政を演じる、坂東彌十郎さんそのままで、妙に感心してしまいました。