読書ノート2022年No.20は、『国鉄―「日本最大の企業」の栄光と崩壊』(著 石井幸孝/中公新書/初版2022年8月25日)
今年は、日本の鉄道が開業してから150年。国鉄が民営化されてから35年。節目の年にあたります。
「JR」はいつのまにか耳に馴染み、「国鉄」(日本国有鉄道)は、すっかり懐かしい言葉になってしまいました。
本書は、1955年に国鉄に入社し、JR九州の初代社長を務めた著者が、国鉄の38年の歴史とともに、「国鉄問題」の本質と鉄道の未来を語ったもの。
様々なエピソードを交えて、国鉄の歩んできた道を振り返りながら、崩壊を招いた数々の問題を明らかにするとともに、JRのこれからと日本の鉄道のあり方について言及しています。
物心ついた頃から、国鉄の赤字は社会問題であり、記憶にはありませんが、国鉄民営化を疑問に思ったことは一度もなかったはずです。もっとも、当時、国鉄の実態も、莫大な赤字の理由も、詳しく知っていたわけではありません。
そのため、国鉄の誕生にはGHQが関与し、誕生のときから破綻の芽を抱えていたこと。
それでも、「勤勉な組織」のもと、戦後の混乱期から日本経済の成長を支えた「栄光の時代」があり、昭和38年度(1963年度)までは黒字経営であったこと。
ところが皮肉にも、経済成長によって国民が豊かになり、モータリゼーションも進んだために旅客・貨物ともシェアが低下。
やがて利用客離れ、運賃値上げ、サービスの低下の悪循環に陥り、生産性向上運動や合理化計画も功を奏せず、非効率な経営が常態化していったこと。
そこには、国鉄独特の組織風土・習慣・人事制度の問題や労使関係の悪化、職員の「親方日の丸」意識といった問題も横たわっていたこと…。
初めて知った国鉄の歴史と内実は興味深く、崩壊に至るプロセスと理由がよくわかりましたが、誕生のときから荷物を背負わされ、自分ではどうにもできないしがらみがあったとはいえ、お役所的体質を払拭し、よき「企業経営」がなされていれば、もしかしたら違った道もあったのかもしれません。
著者によれば、国鉄には中央集権、縦割りのセクショナリズム、前例主義、自己責任意識の欠如、不都合な事実の隠蔽という病理があったそうです。
それは国鉄だけでなく、今も、そしてどこにでもありそうな問題でもあり、昨今の企業不祥事が思い起こされました。
ところで著者は、鉄道網の重要性を説き、また新幹線を使った物流を提案しています。
「コンテナ新幹線」など思いもよらないもので、本当に実現すれば、日本の物流にインパクトを与えそうです。
もっとも、鉄道事業者としては、鉄道以外の事業分野をどうやって拡大するのか、今はそれで頭がいっぱいのような気がします。