
『本が生まれるいちばん側で』を読みました。〈著/藤原印刷(藤原隆充・藤原章次)/聞き手・文 田中裕子/ライツ社/初版2025年9月23日〉
本書に登場する藤原印刷は、松本市にある老舗の印刷会社。教科書や専門書といった本の印刷を主力に、70年の歴史があるそうです。
本書は、藤原印刷の三代目にあたる藤原隆充さんと弟の章次さんが、そんな“黒子”ともいえる仕事とは別に、15年前に二人で始めた「個人のための本づくり」について綴ったもの。
「自分で本をつくりたい」という人たちの想いに応え、一緒になってつくってきた本の数々と、本にまつわる物語を紹介しながら、本づくりへの熱い想いを語り、自分で本をつくることの喜びや楽しさを伝え、そして本づくりの具体的な方法を解説しています。
藤原印刷では、これまで750冊以上の本づくりを手伝ってきたとのことですが、本書では、20作品がカラー写真で紹介されています。
ショッピングバッグの生地を本に使う。ワンピースの切れ端を表紙に貼る。本文に穴を開ける。ページごとに紙を変える。使用済みのダンボールを表紙に使う…。
どれも、作者の想いと、こだわりが詰まった個性的なものですが、つくる方からすると大変な仕事になります。
けれど、頼まれて「できない」と言わないことが藤原印刷のポリシー。困難に直面しても、自社だけでなく、協力会社の知恵と力も借りながら、何としても形にしようと力を尽くす姿は印象的です。
章次さんは、「理想を追求すると、めんどくさいことは増える。でも“無理”や“無謀”を乗り越えようと腹をくくれば、できることは大きく広がる」
「藤原印刷は、3万円の仕事から2000万円の仕事まですべて同じスタンスで“心刷”している」と語っています。
自分だけの本を作りたい人からすれば、その言葉は心強いに違いなく、「できない」と言わない藤原印刷が、「ZINEの聖地」と言われる理由がよくわかります。
その一方で、本書で紹介されている、藤原印刷で本をつくった人たちのエピソードも心に残るものです。
本づくりの動機は様々ですが、共通しているのは、本づくりで得たものが製本された本だけではないこと。
完成までのプロセスの楽しさ。自分だけの世界をつくる喜び。本を手にしたときの感動…。多少なりともお金はかかりますが、自分も味わってみたくなります。
ところで、本書で紹介されている作品と本書については、仕様や印刷部数、制作予算が書いてあるのですが、驚いたのは、本書が章ごとに5種類の紙を使って印刷されていること。
本書をサンプルブックにしてしまうアイデアには、さすがと言うしかありませんでした。