えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『トワエモア&白鳥英美子 50周年記念コンサート』

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一昨日(11月9日)、トワエモアのデビュー50周年を記念した『50th Anniversary トワエモワ&白鳥英美子コンサート ~時は変るとも~』があり、会場の相模女子大学グリーンホールに足を運びました。

中学や高校の頃聴いたトワエモアのヒット曲は、今でも口ずさむことができます。

ただ二人の歌がいいなあと思えたのは、20年程前、トワエモアの活動が再開されて間もない頃に、久しぶりに歌声を聴いてから。

懐かしさもあったかもしれませんが、芥川さんの張りがあって味のある歌声と、白鳥さんの透き通るような歌声が胸に響いてきたことを、今でもよく覚えています。

コンサートは二部構成(二部では白鳥さんのソロのコーナーもありました)。デビューしてからの興味深いエピソードや、芥川さんの楽しい話を交えながら、「或る日突然」、「初恋の人に似ている」、「虹と雪のバラード」、「誰もいない海」、白鳥さんの「AMAZING GRACE」といったヒット曲を含めて20曲ほどが熱唱され、アンコール曲の「空よ」は、観客も一緒になって歌いました。

同じ曲でも、年齢によって感じ方は変わってくるもの。歌を聴いて、青春時代を懐かしみ、歩んできた人生を見つめてしまうのは、自分もまた年を重ねてきたからでしょう。どの曲も、心にしみてくるものがありました。

芥川さんは今年71歳で、白鳥さんは69歳。けれど、まったく年齢を感じさせない歌声は、本当に驚くばかり。

「デビュー時のキーをさげないこと」が、活動を続けていくための二人の約束だそうで、きっと日頃から鍛錬されているのだと思います。いつまでもきれいなハーモニーを聴かせてほしいものです。

公演終了後サイン会があり、会場で買ったCDのジャケットにサインをしてもらい、暖かい気持ちで家路につきました。

『愛犬家の動物行動学者が教えてくれた秘密の話』を読みました

愛犬家の動物行動学者が教えてくれた秘密の話

2019年57冊目の読書レポートは、『愛犬家の動物行動学者が教えてくれた秘密の話』(著 マーク・ベコフ 訳 森 由美/エクスナレッジ 初版2019年8月30日)

週末、購読している新聞(一般紙と経済紙)の書評欄を読むのは楽しいものです。本書は、両紙で同じ日に紹介されたもの。あまりないことで、しかも犬に関する本。気になって読んでみました。

著者は愛犬家でもあるアメリカの動物行動学者。本書では、まず犬との関わり方を考え、犬の鼻、目、耳の能力を見て(鼻の力は相当なすぐれものです)、そして著者の観察と学術的な観点から、犬の遊びの意味、犬社会における序列、散歩の意味、犬の心理や感情などについて、解き明かしていきます。

散歩の途中で臭いを嗅ぎまくるのはなぜか。マーキングにはどんな意味があるのか。犬にはどんな感情があるのか。何であんなに尻尾を振るのか…。

わが家にも今年11歳になったオスのマルチーズがいますが、不思議な行動の謎が解けてきました。

散歩していると、臭いを嗅いでいる犬の意思(?)に反して、「もう行こう」とついついリードを引っ張ってしまうことがよくあります。けれど犬にとっては、それはせっかくの楽しみを奪ってしまう、‟無慈悲”な振る舞いのようです。

犬の散歩はあくまで犬のための散歩であって、人間のための散歩であってはならないと著者は戒めていて、「これからは、多少汚い場所でも、できるだけ臭いを嗅がせよう」と心に誓ってしまいました。

著者は、「人間は犬の幸福に全面的に責任があるということも自覚してほしい。私たち人間は彼らの生命線であり、この力関係には大きな責任が伴う。」と語っています。

しかし残念ながら、犬を物のよう扱ったり、虐待したり、捨てたりする例は日本でも後を絶たず、ときに社会問題にさえなります。

犬を飼うすべての人に、著者のこの言葉を知ってほしいとつくづく思いました。

『円谷幸吉 命の手紙』を読みました

円谷幸吉 命の手紙

2019年56冊目の読書レポートは、『円谷幸吉 命の手紙』(著 松下茂典/文藝春秋 初版2019年10月10日)。新聞広告を見て、買い求めました。

前回の東京オリンピックが開催されたのは今から55年前。オリンピックを見ていたという記憶はほとんどありません。

けれど、マラソンで陸上競技唯一の銅メダリスト。期待された次のメキシコ大会を前に27歳で自殺。そして胸を打つ遺書。円谷幸吉という名前が脳裏から消えることはありません。

本書は、ノンフィクションライターの著者が、円谷の残した200通以上の手紙と親族や関係者の証言を通して、競技ランナーとしての円谷の人生をたどり、死の真相に迫るルポルタージュ。

婚約者になる女性との出会いと円谷の熱い思い。自衛隊体育学校の陸上競技教官(監督)畠野洋夫と二人三脚でつかんだオリンピック出場と銅メダル獲得。自衛隊体育学校の校長が交替したことで暗転していく競技生活と突然の婚約破棄。競技に深刻な影響を及ぼすアキレス腱と椎間板ヘルニアの手術。故郷で過ごした最後の正月。そして付添婦との半同棲生活。

手紙に書かれた円谷の心情と著者の丹念な取材をもとに、円谷の走った人生が丁寧に描かれています。

筆まめでよく手紙を書いた。結婚を目前にした婚約者がいた。オリンピック後に自衛隊体育学校の校長と確執があった。遺書の内容は円谷家の正月の慣習と関係していた…。登場するエピソードは本書で初めて知ったことばかり。

付添婦の話には驚きましたが、意外だったのは、円谷はユーモアもあり明るい性格であったということ。これまでは勝手に暗いイメージを持っていました。

それだけに、監督や同僚、友人にも恵まれ、結婚も目前で、順調だった人生が、一人の人物のせいで変調をきたし、体の故障も重なり、次第に重苦しくなっていく様子には、余計切ないものを感じます。

円谷の自殺の理由は、いろいろ取沙汰されているようです。様々な要因が重なった末の出来事かもしれませんが、最大の理由は、著者の指摘するとおり、手術のために思うように走れなくなったことに尽きるのでしょう。

責任感が強く、真面目な円谷にとっては、「メキシコオリンピックで日の丸を掲げる」という‟国民との約束”が果たせなくなったことも、つらかったに違いありません。

遺書には「父上様、母上様 幸吉は、もうすっかり疲れ切ってしまい走ることはできません」という言葉がでてきます。

本書を読んで、その言葉には、円谷の苦悩や絶望感が凝縮されていることに改めて気づかされ、計り知れない思いに心が揺さぶられました。

著者は遺書の現物を見て、凛とした日本人・円谷幸吉の気が立ち昇るのを感じ、「マラソンランナー・幸吉の名前は一〇〇年しかつづかないかもしれないが、彼の遺書は一〇〇〇年も語り継がれるだろうと思った」と語っています。

また、円谷の故郷である福島・須賀川市では、昭和58年から「円谷幸吉メモリアルマラソン大会」が毎年開催され、出場者は年々増えているそうです。

普通、自殺した人の話題などは避けたがるもの。まして、遺書に感じ入ることなどまずありません。

しかしそうではないところに、円谷の人柄が偲ばれます。円谷を思う気持ちは、これからも多くの人が持ち続けていくことになるのでしょう。

来年の東京オリンピックのマラソンは、札幌で行われることになりました。円谷が生きていれば来年ちょうど80歳。国立競技場で観戦できないのは残念がったかもしれませんが、きっと札幌まで行って、自分の走った姿を重ねながら、日本選手に声援を送ったに違いありません。