えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『芝園団地に住んでいます 住民の半分が外国人になったとき何が起きるか』を読みました

芝園団地に住んでいます : 住民の半分が外国人になったとき何が起きるか

2019年55冊目の読書レポートは、『芝園団地に住んでいます 住民の半分が外国人になったとき何が起きるか』(著 大島 隆/明石書店 初版2019年10月1日)。書店で目にして、手に取りました。

芝園団地は、埼玉県川口市にあるUR都市機構(旧日本住宅公団)の管理する賃貸住宅。

この団地の最寄り駅はJR京浜東北線の蕨駅ですが、もう随分昔、社会人になって初めて住んだ会社の寮(といっても借り上げアパートでした)が川口市にあり、最寄り駅も同じ蕨駅。高層住宅が連なる団地の姿に強い印象を受けたことは、今でもよく覚えています。

本書は、今世界で起きている移民問題を重ね合わせながら、この団地に住む日本人入居者と中国人入居者の関係を巡り綴られたルポルタージュ。著者は、家庭の事情と仕事がきっかけで、この団地に住むことになった新聞記者です。

本書によると、この団地は、1978年に首都圏で働くサラリーマン家庭に向けて建てられたもの。敷地には学校や商店街、銀行などもあって生活の便もよく、入居には抽選が行われるほど人気があったようです。

ところが、その後日本人入居者は減少を続け、また高齢化も進み、今やこの団地の5000人弱の入居者のうち半数以上は中国人を中心とする外国人。

一時はゴミや騒音といったトラブルが多発し、ネット上の書き込みで“荒れた団地”というイメージが広がってしまいましたが、団地の自治会やURの取り組みにより状況は改善し、今ではトラブルも減っているようです。

しかし著者は、この団地に住んでみて、一見平穏だけど日本人と中国人との間には見えない壁―「静かな分断」―があり、「共存」はしていても「共生」はしていないことを実感。

自ら自治会の活動に参加し、住民の話を聞きながら、この見えない壁の正体を探っていきます。

すると明らかになったのは、高齢の日本人入居者が抱く、「ここは私たちの団地だ」という思い。

それは、アメリカでトランプ大統領を支持する人たちが言う「ここは私たちの国だ」と共通するものだと著者は言います。

確かに、中国人入居者は若い世代が多く、団地で聞こえてくるのは中国語ばかり。商店街にある日本人経営者の店は次々に閉店し、代わりに中国人経営者の店が開店。団地の夏祭りには、高齢の日本人が準備や後片付けに奔走する一方で、中国人はお祭りをただ楽しむだけ。

「私たちの芝園団地」はいつの間にかどこかへ行ってしまい、これでは入居者ならずとも、疎外感の混じった複雑な感情を持つのは、無理ないことかもしれません。

ただし、たとえ見えなくても、住民を分断する壁は一歩間違うと排斥主義を招きかねないもの。一緒に住むのであれば、壁があるままの「共存」ではなく、互いに交流し、理解しあう「共生」が理想でしょう。

本書では、「共存」から「共生」をめざし、何とか見えない壁を乗り越えようとする住民や、日本人と中国人の接点を作ろうとする学生ボランティアの試行錯誤する姿が紹介されています。

言葉、世代、習慣、生活スタイルが異なり、また同じ日本人でも考え方が違うため、簡単ではありませんが、少しずつ成果が出ている様子は印象に残りました。共通の帰属意識がもっと高まれば、団地の姿も変わってくるに違いありません。

本書では、「共生」のためには、「ステレオタイプ」から脱却すること、日本人特有の「郷に入れば郷に従え」的な発想を改めることが大切だとしています。

日本では外国人労働者がこれからさらに増えていきそう。そう考えると、それは何も芝園団地だけの話ではなく、これからの日本人が等しく考え、実践すべき課題となるはずです。

『薬師丸ひろ子コンサート2019』

f:id:emuto:20191027175246j:plain

昨日(26日)、薬師丸ひろ子さんのコンサートがあり、会場のオーチャードホールに足を運びました。

薬師丸ひろ子さんといえば、ずっと俳優としてのイメージしかなく、歌にはほとんど関心がありませんでした。

ところが、NHKの朝ドラ「あまちゃん」で『潮騒のメモリー』を聞いてから、印象が一変。“鈴を転がすような歌声”がすっかり好きになり、一度は生の歌を聴いてみたいと思っていました。

当初、今年のコンサートツアーで東京公演として伝えられたのは、東京国際フォーラムで開かれる1回だけ(10月19日)。

さっそくチケットの先行抽選に応募しましたが、ことごとくはずれ。発売初日も回線混雑で販売サイトになかなかつながらず、チケット入手は結局あきらめることに…。

ところが、追加公演が行われることを知り、プレイガイドを変えて先行抽選に再度チャレンジ。するとあっけなく当選し、しかも一階席の前から10列目というまずまずの場所。念願が叶いました。

コンサートでは、定番のヒット曲や新旧のアルバム収録曲など20曲を薬師丸さんが熱唱。アンコールでは『潮騒のメモリー』も歌われました。

伸びやかで、透明感のある歌声は期待どおり。音自体は、スタジオで収録され、きれいに整音された音の方がいいかもしれませんが、心のこもった本人の歌声は、何ものにも代えがいものがあります。

特に印象に残ったのは、高倉健さんとのエピソードを語ったあとに歌った『戦士の休息』と薬師丸さんが作詞した『エトワール』。歌詞のせいもあり、胸に迫ってきました。

夕方5時に開演し、途中休憩をはさんで終わったのが7時半。あっという間でしたが、忘れがたいひととき。

みんなで立ち上がったり、歌ったりする必要のない、中高年にも優しいコンサートで、機会があればまた行きたいものです。

ところで、昨日の渋谷はすでにハロウィンモード。薬師丸さんも観客が無事に帰れるか心配してくれたのですが、会場で買い求めた「トートバッグ」(キーホルダー付きです)を手にし、コンサートの余韻をかき消すような人混みをかき分けながら、帰りの駅に向かいました。

『NHK音楽祭2019』チェコ・フィルハーモニー管弦楽団演奏会

f:id:emuto:20191026132221j:plain

f:id:emuto:20191026132254j:plain

昨夜は、今月10日に続き、「NHK音楽祭2019」のコンサートがあり、NHKホールに足を運びました。

昨日は、セミョーン・ビシュコフの指揮とチェコ・フィルハーモニー管弦楽団によるチャイコフスキープログラム。

前半は樫本大進さんのバイオリンで、『バイオリン協奏曲 ニ長調』。おなじみの曲ですが、樫本さんの演奏ということで楽しみにしていました。

樫本さんの演奏を聴くのは今年3回目。どのコンサートも印象に残っていますが、昨日は格別。特に、第一楽章のカデンツァは圧巻で、抜群のテクニックと色彩豊かな音の響きに魅入られてしまいました。

上手い表現ではありませんが、針の穴から聴こえてくるような繊細な高音は、何とも言えないものです。

アンコール曲はバッハの『無伴奏バイオリンのためのパルティータ第2番から第3楽章』。これも絶品で、心に染みわたってきました。

プログラムの後半は、交響曲『マンフレッド』。チャイコフスキー唯一の標題交響曲ですが、第4番、第5番、第6番ほどには演奏されません。

私も生演奏で聴いたのは昨日が初めてでしたが、まず目についたのはオーケストラの配置。コントラバスが最後列で横に並んで演奏するスタイルは珍しく、低音が正面から響いてくるのは新鮮です。

昨日のビシュコフさんの指揮は、気持ちのこもったもの。チェコフィルもこれに応えて、華やかで、情緒的な作品を熱演。

弦と管の響きに圧倒され、打楽器の歯切れのよさが心に残りました。オケの力があってこそですが、この作品はもっと評価されても良さそうです。

樫本さんとチェコフィル。チャイコフスキーを堪能しました。