えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『涙にも国籍はあるのでしょうか 津波で亡くなった外国人をたどって』を読みました。

読書ノート2024年の8冊目は『涙にも国籍はあるのでしょうか 津波で亡くなった外国人をたどって』(著 三浦英之/新潮社/初版2024年2月20日/写真 木戸孝子)。書店で目にして、手に取りました。

今年は東日本大震災が起きてから13年目。強烈な地震の記憶は薄れることはなく、ついこの間の出来事のような気がします。

本書は、朝日新聞の記者で、ルポライターでもある著者が、東日本大震災の津波で亡くなった外国人を追ったノンフィクション。

「東日本大震災で犠牲になった外国人の数が正確に把握されていない」という事実を知った著者は、津波の犠牲となった外国人を自ら探し出し、生前に暮らした土地や外国人の遺族、関係者を取材。彼らの人柄と日本での暮らしぶり、そして残された者の思いを丁寧に綴っています。

本書に登場するのは、幼い娘を残し出稼ぎに来ていたフィリピン女性。日本人男性と再婚した中国人。日本が好きで、外国語指導助手として来日したアメリカ人女性。宇都宮に住みながら津波で命を落としたパキスタン人。児童や住民から親しまれていた外国語指導助手のアメリカ人男性。娘から呼び寄され、日本で余生を過ごしていた韓国人女性。半世紀以上日本で暮らしていたカナダ出身の神父。日本人男性と結婚し、娘とともに亡くなったフィリピン女性。

それぞれ事情は違っても、誰もが夢や希望、願いを持って来日したはずなのに、突然の災害に襲われ、異国の地で命が絶たれてしまう。

その無念を思うと言葉もなく、残された人たちの悲嘆は胸に迫り、やり切れないものが湧き上がってきます。

けれど悲しみのそばには、在りし日の思い出を胸に、それを乗り越えようとする人たちや、遺族を支えようとする人たちの姿があり、それがせめてもの救いとなりました。

本書の最後に、津波で3人の子を亡くし絶望の淵にあった日本人の木工作家が、外国語指導助手のアメリカ人女性の遺志をきっかけに立ち直っていくという、印象的なエピソードが紹介されています。

津波で亡くなった外国人が、自分の行いに苦しむ日本人に光を与える。そのいきさつには心を打たれましたが、「見えない力が巡り会わせた」と思わずにいられません。

ところで本書では、震災に関係して、外国人に立ちはだかる様々な壁や、外国人(とりわけ白人以外の人種)に対する冷たさについて、知ることにもなります。

それが外国人犠牲者の数の話にもつながるのですが、常日頃の日本人の意識を浮き彫りにするもので、考えさせられました。