えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『万感のおもい』を読みました。

読書ノート2024年の3冊目は『万感のおもい』(著 万城目学/夏葉社/初版2022年5月10日/装丁 櫻井久)

夏葉社さんの本ということもあり、発売後さっそく購入したのですが、ずっと本棚に飾ったまま。万城目さんの直木賞受賞が、本を開くきっかけになりました。

本書は万城目さんのエッセイ集。新聞や雑誌などに掲載されたエッセイ42編が、「ついでのおもい」、「京都へのおもい」、「色へのおもい」、「あけくれへのおもい」、「大阪へのおもい」の五つのパートに分けて収録されています。

万城目さんといえば奇想天外な小説で知られ、“万城目ワールド”とも言われていますが、エッセイの名手でもあるとのこと。

確かに、本書に収録されている作品も、日々の生活での出来事や目に映る光景などをテーマに、万城目さんの思いが様々な色合いで軽妙洒脱に綴られ、小品ながら心がひかれていきます。

なかでも印象に残ったのは、亡くなった父親のことを「オレンジ色」に重ねて偲ぶ『第十色 二月』と、新型コロナに感染し亡くなった友人のことを綴った『Kの死』。万城目さんの切ない心情が、じんわりとしみ込んできて、胸が熱くなりました。

ところで、先だって朝日新聞に掲載された万城目さんの「直木賞受賞エッセー」によると、万城目さんはデビュー以来、有名文学賞に10回ノミネートされ、すべて落選したとのことです。

本人曰く、「文学賞と聞いただけで顔をしかめる偏屈おっさん」になったそうですが、賞を取るために作家になったわけでなくても、落選の連続では、さすがに平静ではいられなかったでしょう。その心中は察して余りあるものがあります。

ただ今回の受賞で、文学賞に対する一方的なわだかまりは解消されたそうで、これで「偏屈おじさん」は卒業。本当に喜ばしい限りです。

抑え込んでいたものが無くなった分、万城目さんの世界はさらに広がり、これからも私たちを楽しませてくれることでしょう。