えむと、メモランダム

読み散らした本と出来事あれこれ

『インフルエンザ なぜ毎年流行するのか』を読みました

インフルエンザ なぜ毎年流行するのか (ベスト新書)

2019年59冊目の読書レポートは、『インフルエンザ なぜ毎年流行するのか』(著 岩田健太郎/ベスト新書 初版2018年11月20日)。

先頃読んだ『新・養生訓 健康本のテイスティング』(著 岩田健太郎・岩永直子/丸善出版)に触発されて岩田先生の著書をもう少し読みたくなり、書店のホームページで検索。

私でも理解できそうな最近の本(しかも季節もぴったり)ということで、本書を手に取りました。

本書は、岩田先生がインフルエンザに留まらず、ご自身の専門である感染症の話を中心に、健康や病気について「正しい情報」を教えてくれるもの。

「おにぎりを素手で握ってはいけないのか」、「ヨーグルトでどれだけ体がよくなるのか」といった身近な話題を取り上げながら、インフルエンザワクチンの有効性、感染症の予防や対策、抗生物質の有効性や免疫力などについて、わかりやすく説明されています。

学級閉鎖・学校閉鎖がインフルエンザの流行を押さえるのに効果的だという明確なデータはない。「特定保健用食品(トクホ)」が健康に本当に役に立つかどうかはわからない。“マスク”、“手洗い”、“うがい”に風邪予防の効果は期待できない。「免疫力」をアップするこれという方法はない(免疫力で大事なのはバランスであり、強い、弱いではないそうです)…。

今まで当たり前だと思っていたことが、実は根拠に乏しいことを知って、びっくり。

「常識」というのは実にいい加減なものだと思い知りましたが、抗生物質の処方の仕方、HIV感染者に対する差別問題といった医療現場の実態にも衝撃を受けました。

そして、岩田先生の出版社に対する批判は本書でも。

健康や病気に関し、「ちゃんとした」本が少ないことを嘆き、売上主義の出版社の姿勢を問題視しています。

実名をあげ、実際のやり取りまで書かれているのは、よほど腹に据えかねてのことかもしれませんが、的を射た指摘であることは間違いありません。

出版社の大事な仕事に「校閲」という作業があります。これは原稿の内容-人名、固有名詞、歴史的事実、データの数値など-に誤りがないか確認するもの。

しかし、実用書コーナーにあふれる「健康本」の内容について、出版社がその妥当性をどこまで検証・確認しているのか、かなり心許ないというのが事実でしょう。

けれど、岩田先生も指摘しているように、SNSの影響などもあって、社会の意識は確実に変化し、メディアへの視線は厳しくなっています。

いい加減な本を出して許される時代を終わりにしないと、出版業界に明るい未来は訪れないかもしれません。

『新・養生訓 健康本のテイスティング』を読みました

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2019年58冊目の読書レポートは、『新・養生訓 健康本のテイスティング』(著 岩田健太郎・岩永直子/丸善出版 初版令和元年10月25日)。SNSで本書のことを知り、買い求めました。

日本は世界でも指折りの長寿国。ただそれでも「もっと健康になりたい」という願望を持つ人が多いのか、あるいは体の不調に悩んでいる人が多いのか、テレビでは健康をテーマにした番組が花盛り。書店に行けば、たくさんの「健康本」が並んでいます。

しかし本書の著者、神戸大学大学院教授の岩田健太郎先生によれば、健康本には読んで役に立つ本と、読むだけ無駄な本があるとのこと。

では、医学知識がない人でもそれを区別できるのか。本書は、その問いに答えるために、岩田先生とBuzzFeed Japanの編集者で医療ジャーナリストの岩永直子さんが、最近話題になった健康本10冊と、貝原益軒の『養生訓』を‟テイスティング”し、内容について話し合った対談本。

「医療情報」、「食事」、「睡眠」、「予防」といったテーマにそって、本の内容をクリティーク(批評)し、玉石混交の健康本の中で、良書の見極め方を明らかにしていきます。

もっとも、二人の話は本の批評に留まりません。本をきっかけに、「科学の本質」、「EBM(科学的根拠に基づく医療)の本質」、「医師の役割や働き方」、「日本の医療制度や教育制度」、「日本社会のあり様と日本人の意識・行動」、「出版社の姿勢」…。話はどんどん膨らんでいきます。

岩田先生の指摘は鋭く、説得力は十分。「そこまで言って大丈夫?」と思わせるようなフレーズも出てきますが、根拠が明確に示されていて反論は難しそう。

また、決して人物(あの人が書いているから全部だめ)ではなく、内容を是々非々でクールに判断しているので、隙はありません。

一方岩永さんも、著名な医療ジャーナリストだけあって、岩田先生に負けず劣らず医療に対する見識は確かなもの。

岩田先生の考えに同調しつつ、ときに敢然と反論。スリリングな雰囲気も伝わってきましたが、それがまた議論を深めることにつながっています。

「主張の裏付け・文献が明示されているか」、「成分主義は良くない」、「免疫力アップという話はたいていデタラメ」、「外国礼賛と日本礼賛は信用しない」といった、健康本の見きわめに直結する話は、もちろん有益だったのですが、印象に残ったのは、岩田先生の次のような言葉。

「効果を検証するのは割り算ではなく、引き算でみる」。「エフェクトサイズが大事」。「今あるデータではなく、今ないデータを見る」。「一般化できるもの、一般化できないものを分ける能力を身につける」。「世界の中の多くのことはハウツーじゃわからない」。「みんなで攻めて、みんなで守るのは“幼稚園児のサッカー”」。「大事なのは“自分が何を知らないのか”という自覚を持つこと」。

医療関係者に限らず、仕事を進めていくうえで、また物事を考えるうえで、大いに参考になります。本書が実用書のコーナーだけに並んでいるのは、勿体ないことです。

ただ、出版社に対する厳しい指摘は、同じ業界で働いている者として心が痛みます。

表現の自由は大事な権利。だからといって、自分たちの儲けのためだけに、根拠に乏しい健康本(健康本に限りませんが)を出版することが許されるとは思えません。

先日、朝日新聞に掲載された健康本の広告が問題となり、朝日新聞はすぐに「内容に問題があった」との見解を発表しました。

社会の意識は確実に変わっています。情報を世に送ることの責任を自覚しないと、出版市場はますますシュリンクしていきそうです。

NODA・MAP『Q:A Night At The Kabuki』

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昨日(15日)、東京芸術劇場でNODA・MAP第23回公演 Q:A Night At The Kabukiを観ました。

演劇公演を観るのは久しぶり。イギリスのロックバンド、クイーンのアルバム『オペラ座の夜』と演劇を融合させた野田秀樹さんの新作ということで、とても楽しみにしていました。

作品は、シェークスピアの戯曲「ロミオとジュリエット」をベースに、キャピレット家とモンタギュー家を日本の源氏と平家に置き換え、さらに、未来の(それからの)ロミオとジュリエットが登場するという、時空と場所を飛び越えた驚きのもの。

未来のジュリエットである「それからの愁里愛(じゅりえ)」を松たか子さん、未来のロミオである「それからの瑯壬生(ろうみお)」を上川隆也さん、ジュリエット「源の愁里愛」を広瀬すずさん、ロミオ「平の瑯壬生」を志尊淳さんが演じ、竹中直人さん、橋本さとしさん、羽野晶紀さん、そして野田秀樹さんといった方々が脇(「脇」というには個性が強過ぎですが)を固めています。

物語は、出会って5日間で死ぬことになる自分達の運命に抗おうと、あれやこれや手を尽くす、「それからの愁里愛」と「それからの瑯壬生」を軸に展開。

「それからの愁里愛」と「それからの瑯壬生」、そして「源の愁里愛」と「平の瑯壬生」に通い合う愛情はせつなく、一見悲しいラブ・ストリーのよう。

しかし、4人を取り巻く人々との間で繰り広げられるドラマでは、人間の愛と憎しみ、愚かしさや悲しさが描かれ、また歴史の中で消えていった“名もなき人々”の無念の声が聞こえてきて、観る者に強い印象を残します。

驚いたのは、第二幕でシベリア抑留を彷彿とさせる場面が出てきたこと。「手紙」が届かなかったくだりでは、辺見じゅんさんの『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』が思わず頭に浮かびましたが、野田さんの戦争に対する強い思いが胸に迫ってきました。

舞台で重要な役割を演じる病院のベッド。

役者が出入りする回転扉、(恐らく)差し金を使って飛ばす紙飛行機、そして俊寛や宙乗りをイメージする演技など、歌舞伎を思い起こさせる道具や演出。

出演者の躍動感あふれる動きと、間断なく降り注がれる言葉のシャワー。

現代社会への皮肉と、観客を圧倒し、包み込むクイーンの音楽。

とにかく、一瞬たりとも舞台から目を離すことができず、野田秀樹さんの世界にどっぷり浸かってしまいました。

夜7時に開演し、終わったのは10時。あっという間の3時間で、会場でプログラムとトートバックを買い、満足感いっぱいで帰宅の途につきました。

(会場で展示していた舞台模型とパネル)

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(トートバック、プログラム、本人確認が終わったあと手渡されるQカード)

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