えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『東芝の悲劇』を読みました

東芝の悲劇

2017年90冊目の読了は、『東芝の悲劇』(大鹿靖明/幻冬舎 初版2017年9月20日)です。新聞広告で目にして、買い求めました。

東芝の経営危機が言われるようになってから、数多くの「東芝本」が出版されています。本書は、朝日新聞の記者で20年にわたり東芝の取材を行ってきた著者が、西室泰三氏以降の歴代社長こそが東芝の「凋落」と「崩壊」の原因だったとして、彼らが何をしてきたのか、その生々しい実態を明らかにしたものです。

 あまりにもけちくさい「バイセル取引」や「ミスマッチ」と呼ばれる損益操作、自分がいかに優れていることを誇るために作らせた子供じみた「ランキング表」、部下へのパワハラもどきの行為、ねじ曲がったライバル心と嫉妬心。本書に出てくる話はとにかく驚くことばかりです。こんなトップが続いたら、日本を代表する名門企業といえども経営の危機に瀕するのは当然かもしれないと思ってしまいました。

家電では東芝のライバルであった松下電器(現 パナソニック)の創業者松下幸之助さんは、「企業は社会の公器である」という言葉を残しています。“企業は「人」「金」「物」を社会から預かり、社会とつながって活動しているのであり、企業の目的はその事業を通じて社会生活を向上はかることにある。事業経営は本質的には、私事ではなく公事である”と言っているのですが、本書で描かれている経営者たちは、自分の権力・名誉・保身にしか関心がなさそうで、松下幸之助さんの言葉とは正反対のところにいます。会社のために懸命に、真面目に働いてきた社員にとっては、まさに災難でしょう。

本書では、東芝のトップが経団連の会長を狙うエピソードも出てきますが、経団連は「企業行動憲章」を制定しています。そこには「公正かつ自由な競争、適正な取引、責任ある調達を行う」、「政治、行政との健全な関係を保つ」、「企業情報を積極的、効果的かつ公正に開示し、ステークホルダーと建設的な対話を行う」、「従業員の能力を高め、多様性、人格、個性を尊重する働き方を実現する」、「経営トップは、憲章の精神の実現が自らの役割であることを認識して、実効あるガバナンスを構築する」といったことが書かれています。経団連の会長に本書の登場人物が着くというのは、悪い冗談としか思えません。

本書を読んでいるとき、日産自動車、SUBARU(スバル)の不正検査問題、神戸製鋼所の製品データ改ざん問題が発覚しました。いずれも東芝と同様、日本を代表する企業で経団連の会員です。こんな事態が続くと、大企業にとって“コンプライアンス”など所詮ポーズでしかないとのかと思えてきて、憲章のもっともらしい言葉もむなしく聞こえてきました。

読後感(考えさせられた)

『人類5000年史Ⅰ-紀元前の世界』を読みました

人類5000年史I: 紀元前の世界 (ちくま新書)

2017年89冊目の読了は、『人類5000年史Ⅰ-紀元前の世界』(出口治明/ちくま新書 初版2017年11月10日)です。筑摩書房のホームページで知って、さっそく買い求めました。

本書の前書きによると、出口さんが2016年に出版した『「全世界史」講義Ⅰ、Ⅱ』(新潮社)の読者の「もっと詳しい世界史を」という声に応えるため、本シリーズ(全5巻)を執筆することになったそうです。ただ1年に1冊の刊行らしく、完結まで5年はかかるようです。

本書では、第1章で生命の誕生とその進化そして文字が誕生するまでが語られた後、BC3000年頃からBC1年までを第一千年紀の世界(BC3000年頃からBC2001年)、第二千年紀の世界(BC2000年からBC1001年)、第三千年紀前半の世界(BC1000年からBC501年)、第三千年紀後半の世界(BC500年からBC1年)の4つの時代に分けて辿っていきます。
四大文明の誕生、ユーラシア大陸における帝国の出現、そして中国、インド、ペルシャ、ローマの四大国体制の完成まで、単に政治・経済の動きだけでなく宗教、思想、文化などにも触れながら話が進むので、新書とはいえその情報量は相当なものです。次々に登場する地名・人名はとても覚えきれません。そして話の展開は、各地で起きるさまざまな出来事をあたかもカメラで同時中継しているようであり、歴史の大きな流れが目の前に現れてきます。

また、折々に出てくる「シュメールは弱者や障害者を受け入れる社会であった」、「日本に宦官の風習が入ってこなかったのは遊牧民の伝統がなかったから」、「アラム文字が漢字を除くユーラシア東部のほとんど全ての文字の祖形となった」といったエピソードは興味深く、「共和制」、「クラシック」、「プロレタリアート」といった言葉の由来も知ることができて、改めて歴史の面白さを実感しました。

本書を読んで特に印象に残ったのは、気温の変化や火山の爆発といった自然現象や鉄の使用といった技術革新が、歴史を大きく動かす要因になること。もしかしたら、私たちが生きている間でも、想像を超えるような自然現象によって歴史が塗り替えられるような事態が起きるかもしれませんし、インターネットやAIは今間違いなく歴史を大きく動かしているところでしょう。

本シリーズは深い専門性はないかもしれませんが、人類5000年の歴史をさくっと見通せそうです。第2巻の刊行は来年だと思いますが、今から楽しみです。

読後感(面白かった)

『暮らしのなかのニセ科学』を読みました

暮らしのなかのニセ科学 (平凡社新書847)

2017年88冊目の読了は、『暮らしのなかのニセ科学』(佐巻健男/平凡社新書 初版2017年6月15日)です。書店で目にして手に取りました。

本書は、理科教育の専門家である著者が、「ニセ科学」といわれるものの中でも、健康や医療に関するものを取り上げ、それらがどれほど科学的に根拠のないものであるかを明らかにしたものです。

本書で取り上げられているのは、「ガン治療法」「サプリメント」「ダイエット法・健康法」「食品添加物」「水」「マイナスイオン・抗菌商品」「EM菌」など。著者はそれぞれの実態についてわかりやすく解説していますが、「がんを防ぐための12か条」から「ひどく焦げた部分は食べない」がなくなっていたこと、多くのサプリメントは有効性の根拠が弱いこと、水道水の安全性チェックはミネラルウォーターよりずっと厳しいこと(ミネラルウォーターはメーカーまかせ)、健康にいいともてはやされている「マイナスイオン」「ゲルマニウム」「プラズマクラスター」も科学的根拠に乏しいことなど、本書を読んで改めて認識したことが数多くありました。

本書でも言われているように、日本人はことのほか健康に関心があり、また最近では「除菌」「抗菌」といった言葉に敏感です。そのためもっともらしいことを言われると、疑うより先につい信じてしまうのかもしれません。(私も今から20年くらい前に、営業マンが目の前で行った、今から思うと少し怪しい実験を見て、当時としては結構高価な「アルカリイオン整水器」を買った忘れがたい経験があります。)

もちろん、健康にいいと信じてサプリメントや水を口にするのは、あくまで個人的な問題であり、他人が批判することはできません。しかし、それが命に関わってきたり、単なる金儲けの手段であったり、またニセ科学が教育現場にまで入り込んできたりするのは、見過ごすわけにはいかない事態であり、社会全体で考えていくべき問題だと思います。

「ニセ科学」をカムフラージュしたビジネスは、これからも絶えることがないでしょう。本書では、「ニセ科学」にだまされないための方法が紹介されています。「抗酸化作用」「波動」「エネルギー」「免疫力/自然治癒力」「万能」「天然」といったキーワードは要注意ということですが、著者が言うように、「たった一つのもので、あらゆる病気が治ったり健康になったりする万能のものは存在しない」という当たり前のことに考えをめぐらすことが、何より大事なのだと思います。

読後感(考えさせられた)