えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『定年バカ』を読みました

定年バカ (SB新書)

2018年8冊目の読了は『定年バカ』(勢古浩爾/SB新書 初版2017年11月15日)です。数年前に、著者の書いた『定年後のリアル』(草思社文庫)を読んだことがあります。「世間でよく言われる“理想的な定年後”に惑わされるな」といったことが書かれていた記憶があったので、タイトルからして本書も同じような内容だろうと思い、購入するつもりはなかったのですが、堅調に売れているようで、気になって手にとってみました。

本書の帯には、[ベストセラー『定年後』に影響されて、充実した定年後にしなきゃと急がされない!]と書いてあります。昨年、楠木新さんの『定年後』(中公新書)がベストセラーとなり、社会的にも話題となりました。著者は本書でこの『定年後』をはじめとする世に出ている「定年本」を数多く取り上げながら「本に書かれている“お金”、“生きがい”、“健康”、“社会とのつながり”などいちいち気にするな」「定年になったからといって無理に何かする必要はない」「人からどう見られようと関係ない。自分が好きなようにしたらいいのだ」といったことを述べています。著者の考えは『定年後のリアル』と変わりませんが、定年本を歯に衣着せず批評しているのが面白いところでした。(巻末には取り上げた定年関連本39冊と著者の評価が掲載されています。)

f:id:emuto:20180120214531j:plain

(P213、P212の一部)

楠木さんの『定年後』は、私も発売早々に読んで“人生は後半戦が勝負”という言葉に触発された一人ですが、一方で「言葉で言うほど簡単ではないだろうなあ」とか「今さら“地域デビュー”や“ボランティア”と言ってもなあ」と思ったのも事実です。本書が売れているのは、多くの人のそんな腑に落ちない気持ちを代弁しているからかもしれません。

一般的な定年本では、公園のベンチで過ごしたり、図書館に入り浸ったりするのはよくないことだとしていますが、著者は、そんなことは他人がとやかく言うことではなく、本人が満足しているならそれでいいはずだと言っています。
人生は人それぞれであり、定年になったからといって皆が同じように考え・行動しなければいけない理由はありません。そもそも自分の生き方はそう簡単に変わるものでもなく、しっかりとした心構えや準備がなければ、定年後はこうあるべき、こう生きるべきというといった話は参考程度に聞いておけばいいのだろうと思いました。

読後感(面白かった)

『蒙古襲来と神風 中世対外戦争の真実』を読みました

蒙古襲来と神風 - 中世の対外戦争の真実 (中公新書)

2018年7冊目の読了は、『蒙古襲来と神風 中世対外戦争の真実』(服部英雄/中公新書 初版2017年11月25日)です。新聞の書評欄で知り、手に取りました。

本書は、歴史学者であり、九州大学名誉教授、くまもと文学・歴史館館長である著者が、「神風史観・神風思想」のもとになった蒙古襲来に関する“通説”に批判を加えるとともに、有名な「蒙古襲来絵詞」を読み解いて、蒙古襲来の真相を提示するものです。

本書の前半では通説の検証が行われています。そもそも通説についての知識がないため、指摘されたことについて理解しづらいところもありましたが、蒙古襲来の原因、戦いの経過、神風史観の誤りなどについて詳しく解き明かされています。「硫黄」が日本侵攻の大きな理由であったこと、蒙古軍の船には多量の石がバラストとして積まれていたこと、鎌倉武士の奮闘により戦いに勝利できたこと、ただし薄氷を踏む勝利であったことなど、初めて知ったこと、認識を新たにしたことがたくさんあり、興味深いものがありました。

本書後半では、戦いに参戦した御家人の竹崎季長が描かせた「蒙古襲来絵詞」について、場面ごとに詳しく解説がされています。読んでいると武士の息遣い、馬のいななき、弓矢や“てつはう”の音が聞こえてくるような臨場感を覚え、鎌倉武士の命を賭しての奮闘ぶりには目を見張るものがありましたが、竹崎季長の絶体絶命のピンチを救ったのが友軍の“糞尿投擲作戦”だったというのには驚きました。初めから考えていた作戦だったのかもしれませんが、そこまでしないと勝てなかったことを物語っているようにも思えます。

f:id:emuto:20180117230900j:plain

(P190図30 糞尿投擲作戦のため鼻をつまみ、目もあけられず、口で呼吸)

著者は本書で、神風史観・神風思想が近代日本に大きな影響を与え、神風特攻隊をはじめとして先の大戦における犠牲者・損失が増大した大きな要因になったと指摘しています。日本を救った薄氷の勝利が、それから何百年も経って日本を苦しめることになったというのは、皮肉なことかもしれません。

読後感(興味深かった)

『出版・マンガビジネスの著作権』改訂版

出版・マンガビジネスの著作権(第2版) (エンタテインメントと著作権-初歩から実践まで-4)

 著作権情報センター(CRIC)刊『出版・マンガビジネスの著作権』の第2版(編著 福井健策/著 桑野雄一郎・赤松 健)が発売となり、早速購入しました。

旧版が出版された2009年は、ちょうど私が法務部門への異動を言われた年です。まさか法務の仕事をするとは思ってもおらず、慌てて参考書を買い求めましたが、その中で一番頼りにさせてもらったのが本書でした。その後著作権法の理解も進み、また実務にも慣れてきて次第に本を開くことも減ってきましたが、自分にとっては思い入れもあり、今回の改訂版を楽しみにしていました。

まだざっと目を通しただけですが、まず赤松先生描き下ろしの表紙カバーには驚かされました。旧版のイメージが一新され、とても法律書とは思えません。内容も相当アップデートされているようなので、ブラッシュアップと復習も兼ねてもう一度最初から最後までしっかり読もうと思っています。

f:id:emuto:20180114201313j:plain

(旧版 表紙)