えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『人類5000年史Ⅱ―紀元元年~1000年』を読みました

人類5000年史II (ちくま新書)

2018年82冊目の読了は、『人類5000年史Ⅱ―紀元元年~1000年』(著 出口治明/ちくま新書 初版2018年12月10日)です。昨年から刊行が始まった『人類5000年史』の第2巻。1年に1冊の発行なので、待ちに待ったという感じです。

この第2巻では、第四千年紀(紀元元年から1000年まで)の世界が前半(紀元元年から500年まで)と後半(501年から1000年まで)に分けて描かれています。

第1巻の3000年に比べれば短いですが、それでも1000年の長さは相当なもの。中国王朝の興亡とそれに影響を受ける周辺地域、ローマ帝国の盛衰、インド王朝の興亡、フランク王国の成立、イスラーム帝国の拡大。その間に生まれ広まるキリスト教、大乗仏教、とイスラーム教。新書1冊で辿るのはジェットコースターに乗っているようですが、歴史の動きはイメージしやすいかもしれません。

この第2巻でも、政治、経済、宗教、文化などの動きが様々なトピックとともに、紹介・解説されています。(次々に登場する地名や人名についていくのは、第1巻と同様、少々骨が折れました)

「漢字を受け入れた周辺諸国では、自らを中心とする中華思想が生まれた」、「コンスタンティヌス一世が大帝と呼ばれるのは、キリスト教を優遇したから」、「グプタ朝下のインド文化は当時の世界の最先端だった」、「イスラーム教は、砂漠に生まれた厳格な一神教ではなく、その実体は商人的、都市的な宗教である」、「1世紀から3世紀頃、倭(日本)の主力商品は生口(奴婢や傭兵)だった」、「唐の武則天は日本の女帝たちのロールモデルとなった」、「国力がピークをつけた後に文化の爛熟期が訪れる」。これに留まらず、初めて知ったこと、再認識したことは数知れず、興味が尽きることはありません。

なかでも、紀元前の世界と同様、気候の変動(寒冷化)が「ローマ・漢二大帝国の衰退」、「大規模な諸部族の大移動」など歴史を動かす要因となり、思想にも影響を及ぼしていることや、広い国土とたくさんの人々を統治するために、中国の歴代王朝が打ち出す“しくみ”の卓越性には目を引かれるものがありました。

それにしても、歴史は繁栄と衰退の繰り返しであり、権力・栄華を保持し続けることなど不可能であることがよくわかります。本書にも登場する中国の古典「貞観政要」では、創業と守成の難しさが論じられていますが、守成(維持すること)というのは、この上なく難しいものだということを実証しているようです。歴史においては、興亡、分裂、対立こそが予定調和なのかもしれません。

本書の最後に、1000年の世界のGDPシェアという面白いデータが出てきます。キタイ(契丹)、宋22.7%、インド各国28.9%、東ローマ帝国7.5%、イスラーム3帝国16.2%、西ヨーロッパ6.1%、日本2.7%。それから1000年が経ち、現在はアメリカ24.3%、中国15.0%、日本6.1%。この先1000年後はともかくとしても、50年後、100年後はどうなっているのか知りたくなりました。

読後感(面白かった)

深澤勝(松永忠史朗)さん三味線独演会

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和楽器の世界にはまったく疎いのですが、昨夜、学生時代の知人に誘われて、深澤勝(芸名 松永忠史朗)さんの三味線独演会に行ってきました。

深澤さんは東京芸大の出身。国内外の歌舞伎公演、長唄演奏会に出演するだけでなく、海外でソロコンサートを開催するなど意欲的に活動されているそうです。

プログラムの前半は、伝統的な和の世界。舞台で演奏される曲などが披露されましたが、三味線はもちろん、声もいいので、演奏の合間の芝居のセリフや唄の節回しにも聞き惚れます。f:id:emuto:20181214224314j:plain

また、深澤さんの解説による「川の流れ」「雪の降る様」の表現方法についての話は面白く、日本人らしい細やかさを感じました。

後半は、衣装を紋付き袴から洋服に着替え、深澤さんが作曲したオリジナル曲の演奏。

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前半とは全く違う世界が広がり、特に「風」「鷹」の2曲は心に残りました。三味線は「ちんとんしゃん」だけでないことを実感します。

そして演奏会の最後に、アンコール曲として「故郷」が演奏されました。ゆっくりとしたテンポで奏でられる音色は味わい深く、心から離れそうにありません。

これまでの三味線のイメージが一新し、また深澤さんのあたたかい人柄にも接することができて、とてもいい演奏会でした。

『幸福の増税論ー財政はだれのために』を読みました

幸福の増税論――財政はだれのために (岩波新書)

2018年81冊目の読了は、『幸福の増税論ー財政はだれのために』(著 井出英策/岩波新書 初版2018年11月20日)です。書店で目にして手に取りました。

消費税の改定まで1年を切り、政府が進める増税対策や軽減税率の話題が目につくようになってきました。ここまでくると、よほどのことがない限り来年には税率が10%となり、私たちの家計に影響を及ぼすことは間違いありません。

本書は、財政社会学の専門家である著者が、この消費増税を財源として、「みんなでみんなのくらしを支え合う」という社会(財政がすべての命とくらしを保証する社会)の実現を提言するものです。

著者はまず、日本に根付く「勤労と倹約の美徳」が人々に自己責任を押し付け、社会に重くのしかかっていることを示します。

そして、過剰な自己責任感と経済の成長を前提とした社会モデルの崩壊によって生まれた今の日本の姿ー「価値を分かち合うことができず、利己的で孤立した“人間の群れ”と化しつつある社会」、「あらたな線引きにより分断が進む社会」ーを様々な資料・データなどをもとに明らかにします。

他者の痛みに関心を寄せず、「共存感」がゆらいでいる。弱者への給付が、“自分は弱者だとは思っていない弱者”から批判され、不満や軋轢が生まれる。

生活水準が低下し、将来への不安が渦巻くなか、日本の社会は深刻な状況に直面していると思わざるを得ません。

著者はこのような冷たい社会を憂い、命とくらしが保証された温もりある社会を回復すべきだとし、本書では消費税を使った「ベーシック・サービス」という考え方を示し、その実現により社会を変革することを訴えています。

この「ベーシック・サービス」は、お金を渡す「ベーシック・インカム」と違い、医療、介護、教育、子育て、障がい福祉といったサービスを、所得制限をはずし、必要な人すべてに提供するというもの。弱者を助けるのではなく、弱者を生まないことを目指すものです。

高負担・高福祉の北欧型社会と類似しているものですが、著者はこれにより、中高所得者は負担者から受益者に変わり、低所得者は「社会の目」「他人の目」から自由になり、所得の平等化だけでなく、人間の尊厳を平等化するとしています。

しかし、これまでの日本では考えられない政策。おそらく様々な点で批判・異論もあるでしょうし(本書では想定される批判・疑問に対する著者の見解も論じられています)、そもそも、これほどの改革が一朝一夕で実現するとは思えません。

ただそれでも、個人的には著者の考えに共感するところは多く、“分断と対立が進み、他者への嫉妬と憎悪がおおい尽くす社会”ではなく、著者が描く“頼りあえ、誰も助けなくてもすむ社会”に大きな魅力を感じます。単なるアイデアに終わらないことを期待せずにはいられません。

私たちはどのような社会を望むのか、どのような社会を次の世代に残すのか、本書を読んで大きな課題を突きつけられた気がしました。

読後感(考えさせられた)