えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『サザエさんと長谷川町子』を読みました

サザエさんと長谷川町子 (幻冬舎新書)

2020年14冊目の読書レポートは『サザエさんと長谷川町子』(著 工藤美代子/幻冬舎新書/初版2020年3月25日)。書店で目にして手に取りました。

「鉄腕アトム」、「ドラえもん」、「ドラゴンボール」、「名探偵コナン」、「ワンピース」…。

大ヒットした漫画は数多くありますが、「サザエさん」ほど世代・性別を問わず、多くの人から親しまれた作品はないでしょう。

本書は、「サザエさん」の作者で、今年生誕100年を迎える長谷川町子さんとその家族の評伝。

長谷川さんの72年の人生を辿りながら、母、姉、妹、独特の関係で結ばれていた「長谷川家」の実像に迫ったものです。

小学生時代はガキ大将、鬱々していた女学校生活が漫画家になるきっかけであったこと。

「サザエさん」の新聞連載には、様々な思惑が交錯したこと。

「サザエさん」の大ヒットにより一躍脚光を浴びて時の人となり、莫大な収入を得たこと。

大ヒットの陰に家族の結束と役割分担があり、母の奮闘により設立された「姉妹社」が大きな力となったこと。

ところが、母の病と死がきっかけで三姉妹に対立が生まれ、最後は絶縁状態にまでなったこと。

物語は起伏に富み、初めて知ったことばかりでしたが、日本の典型的な中流家庭として描かれ、平和の象徴のような「サザエさん」一家と、長谷川家のギャップは(それは長谷川さん自身も意識していたようですが)、やはり興味を引くものでした。

もっとも関心を持たれてしまうのは、「サザエさん」が国民的漫画だからこそ。ヒットした漫画が違う作品だったら、一家の私生活があれこれ詮索されることはなかったかもしれません。

ちなみに私が知っている、私生活が話題になった人気漫画家は、赤塚不二夫さんくらいです。

ところで、本書を読んで強く印象に残ったのは、三姉妹の人生を決定づけた母・貞子さんのこと。

夫(長谷川さんの父)の他界後、長谷川家の大黒柱として奮闘する行動力、娘たちの才能を見極める眼力、山師譲りの「一山あてよう」という気概、土地や商売に対する抜群の嗅覚…。

敬虔なクリスチャンというイメージからはとても想像できません。人物の面白さは家族のなかで一番でしょう。

「サザエさん」の“生みの親”はもちろん長谷川町子さんですが、本書を読んで、貞子さんあってこその「サザエさん」だったと思うことになりました。

『日本文化の核心「ジャパン・スタイル」を読み解く』を読みました

日本文化の核心 「ジャパン・スタイル」を読み解く (講談社現代新書)

2020年13冊目の読書レポートは『日本文化の核心「ジャパン・スタイル」を読み解く』(著 松岡正剛/講談社現代新書/初版2020年3月20日)。書店で目にして手に取りました。

私にとっての松岡氏は何といっても「千夜千冊」。初めてサイトを目にしたときは、びっくりしました。

本書は、松岡氏が“ジャパンフィルター” と名付けた手がかりをもとに、日本文化の核心(=真骨頂、正体)を読み解くもので、いわば松岡流日本文化論(日本論)。

「客神(ゲストの神)」、「米」、「神仏習合」、「仮名」、「家」、「かぶき」、「数奇」、「面影」、「まねび」、「経世済民」といったフィルターを通して、日本文化の奥底にあるものを明らかにしていきます。

松岡氏の話は全部で16話(講)。「柱の文化」、「コメ信仰」、「和の起源」、「学びの本質」、「庭と日本人の経済性」、「粋といなせ」…。

切り口は独特で刺激的。日本文化などには全く疎い私でも、引き込まれてしまったのですが、松岡氏の造詣の深さ、守備範囲の広さ、時代性には舌を巻きました。

面白かった話のひとつが、「ポケモン」と「かぐや姫」、「一寸法師」の関係を取っ掛かりに、「日本的ミニマリズム」について論じた第8講の『小さきもの』。

日本人には「小さいものは美しく、大事なもの」とする感性があること。

それゆえ、日本人は短歌や俳句、盆栽を愛好し、柔道を発達させ、オートバイ、トランジスタラジオ、ウオークマンを開発し、ミニ電卓やポケベルのブームを呼び起こしたこと。

扇子や手ぬぐいなど、小さいものをさまざまに解釈していった才能があり、日本人は小さいものに価値の多様性や変容性を読み取ったこと。

言われてみれば「なるほど」と思うのですが、「小さいものが日本文化の核心」という洞察には畏れ入るばかりです。

そして、仮名文字あっての日本文化という話も強く心に残るもの。
ドナルド・キーン氏は「仮名の出現が日本文化の確立を促した最大の事件だ」と述べたとのことですが、本書でもその意味を知ることができます。

仮名文字が生まれなかったら、日本文化の様相は、今とまったく違ったものになっていたでしょう。

ところで、本書を読んで気がついたのは「日本神話」の面白さ。「日本神話」なくして日本文化は語れないこともよくわかりました。

もっとも、昔と違って今はその内容を教わることもなく、私も知らないも同然。一度きちんと目を通してみようと思っています。

『昭和ちびっこ広告手帳~東京オリンピックからアポロまで~』を読みました

昭和ちびっこ広告手帳 〜東京オリンピックからアポロまで〜

2020年12冊目の読書レポートは『昭和ちびっこ広告手帳~東京オリンピックからアポロまで~』(編 おおこしたかのぶ ほうとうひろし/青幻舎/初版2009年4月20日)。書店で目にして手に取りました。

本書は青幻舎の「ビジュアル文庫シリーズ」の一冊。
オークラ出版から刊行された『ちびっこ広告図案帳―AD For KIDS:1965-1969』を再編集したもので、昭和40年(1965年)から昭和44年(1969年)に発行された児童向け雑誌(主に「少年サンデー」、「少年マガジン」といった週刊漫画雑誌)に掲載された広告を収録した一種の写真集。

300点余りの広告を、「お菓子」、「プラモデル」、「おもちゃ」、「食品・衣料・医薬・出版」、「文房具・自転車・時計・その他」の5つのジャンルに分けて、当時の色合いそのままに紹介しています。

昭和40年代前半は、ちょうど私がちびっ子だった時代。
マンガが大好きで、「サンデー」、「マガジン」、「キング」といった週刊誌だけでなく、「ぼくら」、「少年画報」といった月刊誌もよく読んでいました。

それだけに、よく食べたキャラメル、チョコレートやフーセンガム、欲しかった懸賞の賞品、大好きだったプラモデル、ねだって買ってもらったサッカーゲーム、羨ましかった方向指示器付きの自転車…。

目に飛びこんでくる広告は「そういえばこんなのあったな」と思い起こされ、懐かしさを感じるものばかり。

半世紀の時を超え、当時の記憶が広告とともに蘇ってきました。

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(鉄腕アトムのシールが楽しみだった。上原ゆかりも懐かしい)

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(おそ松くんも、オバQも連載を心待ちにしていた)

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(柔道一直線はテレビドラマに夢中。キックボクサーの沢村忠は大人気で一世を風靡した)

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(プラモデルが大好きでよく作った。サターンロケットを作ったことは今でもよく覚えている)

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(方向指示器がとてもかっこよく見えた。欲しかったけど言い出せなかった)

ちょっと面白かったのは「養命酒」の広告。児童向け雑誌に養命酒の広告というのも不思議ですが、忍者のおじさんが養命酒を飲んでいるというストーリーが奇抜で、笑ってしまいます。

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(週刊少年サンデー 昭和40年2月14日号に掲載)

そして「小銃」の広告も目を引くもの。広告の掲載は昭和40年で、終戦からまだ20年。大人も漫画雑誌を読んでいたとはいえ、“時代”を感じました。

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(週刊少年マガジン昭和40年9月19日号に掲載 )

それにしても、広告を載せただけとも言える本ですが、これだけの広告を集め、画像を修復し(10カ月もかかったそうです)、権利処理をする。その苦労は察するに余りあります。

関係者の熱意と努力に頭が下がりますが、おかげで、ちょっとした宝物をもらった感じです。

ちなみに、同じシリーズの第2彈で『昭和ちびっこ広告手帳2 大阪万博からアイドル黄金期まで』も出ています。

その時代、私はすでにちびっこは卒業。悩みましたが、買うのは後日ということに…。

昭和ちびっこ広告手帳2 大阪万博からアイドル黄金期まで (ビジュアル文庫)