えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『ペリリュー-楽園のゲルニカ-』を読みました。

ペリリュー ─楽園のゲルニカ─ 1 (ヤングアニマルコミックス)

ペリリュー ─楽園のゲルニカ─ 2 (ヤングアニマルコミックス)

ペリリュー ─楽園のゲルニカ─ 3 (ヤングアニマルコミックス)

2017年66冊目、67冊目、68冊目の読了は、『ペリリュー-楽園のゲルニカ-①、②、③巻』(武田一義/白泉社 初版①2016年8月5日②2017年2月5日③2017年8月5日)です。NHKのニュース番組『おはよう日本』でこの作品のことを知り、すぐに手に取って3巻を読み通しました。

作品は今も『ヤングアニマル』(白泉社)に連載中の戦争漫画で、太平洋戦争のさなか1万人以上の日本兵が犠牲になったペリリューの戦いを、一兵卒の主人公を通して描いたものです。第1巻には第7話まで、第2巻には第15話まで、第3巻には第23話までが収録されていますが、すでに発行部数は3巻で10万部を超えているそうで、今年の「日本漫画家協会賞」で優秀賞を受賞しています。

NHKの番組によれば、著者の武田さんが作品を書くきっかけとなったのは、2015年の天皇皇后両陛下のペリリュー島慰霊訪問。その後ペリリューについて調べていくうちに、作品の原案となっているノンフィクション作家の平塚柾緒氏の著書にたどりつき、平塚氏の行った取材をもとに漫画を描くことになったそうです。ストーリーはフィクションですが、史実をもとに構成されているので内容はきわめてリアルで、自分もその場にいるような感覚になるときがありました。

戦争漫画ですから、激しく凄惨な戦闘場面や悲劇的な場面が繰り返し出てきますが、この作品では、戦場という過酷な状況の中で主人公や主人公と同じような普通の兵士が感じたこと、考えていたことがしっかり描かれています。まだ20歳そこそこの若者が、自分が死んだ後に家族がちゃんと「恩給」を受け取れるのか心配する様子など、胸にせまる場面も多く、読んでいると様々な思いが頭をよぎっていきます。

また、武田さんが描く登場人物のかわいいキャラクターもこの作品を特徴づけるもので、深く重い内容とのギャップが戦争の悲惨さをより一層際立たせています。第3巻の最終ページに「日本漫画家協会賞」で贈られた、ちばてつやさん直筆の賞状が紹介されているのですが、そこには『可愛いらしい温もりのある筆致ながら「戦争」という底知れぬ恐ろしさと哀しさを深く表現して見事です。』と書かれています。まさにこの作品を言い表している言葉だと思いました。

今回この作品を目にして、文字にはない「漫画の力」を実感しました。第4巻は来年2月に発刊される予定ですが、必ず買おうと思っています。

読後感(とてもよかった)

『飛行機の戦争1914-1945 総力戦体制への道』を読みました

飛行機の戦争 1914-1945 総力戦体制への道 (講談社現代新書)

2017年65冊目の読了は、『飛行機の戦争1914-1945 総力戦体制への道』(一ノ瀬俊也/講談社現代新書 初版2017年7月20日)です。書店で目にして手にとったのですが、新書とはいえ380ページに及ぶ力作で読み応えがありました。

日本近現代史の専門家である著者は、本書において、戦前の一般国民が、対米戦争における飛行機の役割をどのように考えていたのか解き明かし、あわせて太平洋戦争敗北の理由の一つと言われている「大艦巨砲主義」について検証しています。
巻末には参考文献が掲載されていますが、著者は実に多くの資料・文献を丹念に読みこみ、詳しく分析しています。評論家といった人たちが、どこかで聞いたようなことをもっともらしく言葉にするのとは全く違い(比較するのも著者に失礼かもしれませんが)、さすがに専門家だと感じました。

本書により、大正期から戦争に至るまでに、軍の啓蒙活動、軍人などが書いた書物などを通して、一般国民の間に飛行機が戦争の主役だという認識が高まり、飛行機は戦争に勝利する希望の星になっていったこと、またその過程で、軍用機の献納運動など戦争に協力していく(協力させられていく)様子が明らかにされています。
一方軍部でも、飛行機の重要性はすでに十分過ぎるほどわかっており、戦艦が重要という根強い主張は一部にあったものの、「日本軍は大艦巨砲主義に固執していた」というのは事実でないことも明らかにされています。
本書を読んで、太平洋戦争は“飛行機の戦争”だったことがよくわかったのですが、戦争にまつわる様々な言説には、根拠のない不確かなものもあるということも認識されられました。

本書で印象的だったのは、第一次大戦後の軍縮の動きのなかで、税金を軍備にあてることについて、軍部は国民の目を相当意識していたこと。また、国民も軍部も日本とアメリカとの国力の差をよく知っていて、まともに戦っても勝ち目がないと考えていたことです。中国戦線の膠着、アメリカの経済制裁もあって、国民も軍部も鬱屈し追込まれてしまったのかもしれませんが、合理的な思考があっという間に吹っ飛んでしまうところに、戦争の恐ろしさがあると強く思いました。

読後感(よかった)

『ボストン美術館の至宝展』に行って来ました

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夏休みなのに天候が不順でぱっとしない日が続いていましたが、今日はやっと晴れたので、上野の東京都美術館で開催している『ボストン美術館の至宝展』に行って来ました。平日の午後なので会場は年配の方が多かったのですが、学校が夏休みということで小中高生も結構見かけました。

本展では、ボストン美術館が所蔵するコレクションから80点が「古代エジプト美術」「中国美術」「日本美術」「フランス絵画」「アメリカ絵画」「版画・写真」「現代美術」の7つのコーナーに分けて展示されています。美術はまったくの素人ですが、どのコレクションも素晴らしく、やはり本物は観る人をひきつけます。
個人的には、「日本美術」では英一蝶の『月次風俗図屏風』と『涅槃図』、酒井抱一の『花魁図』、喜多川歌麿の『三味線を弾く美人図』、「フランス絵画」ではモネの『睡蓮』、「アメリカ絵画」ではサージェントの『ロベール・ド・セヴリュー』、「現代美術」では村上隆の『If the Double Helix Wakes Up…』、そして本展の目玉であるゴッホの『郵便配達人 ジョゼフ・ルーラン』と『子守唄、ゆりかごを揺らす オーギュスティーヌ・ルーラン夫人』が強く印象に残りました。

ちょっと驚いたのは、「現代美術」のコーナーで、かごに盛られた果物が時間とともに腐っていく様子を収録した動画がモニターに映し出されていたこと(時間は短縮されています)。静物画の延長線上にあるようなものかもしれませんが、この作品に限らず、これからは思ってもいないような“美術作品”が次々に生み出されるのでしょう。

秋になるとまた様々な美術展が開催されます。気になるものがあれば、また出かけようと思います。