えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『十五歳の戦争 陸軍幼年学校「最後の生徒」』を読みました

十五歳の戦争 陸軍幼年学校「最後の生徒」 (集英社新書)

2017年73冊目の読了は、『十五歳の戦争 陸軍幼年学校「最後の生徒」』(西村京太郎/集英社新書 初版2017年8月14日)です。書店で目にして、手にとりました。

本書は、推理作家の西村京太郎さんが、昭和20年満14歳で入学した「陸軍幼年学校」での日々、終戦直後の日本の姿と推理作家になるまでのあゆみ、そして戦争に対する自らの思いを語ったものです。

陸軍幼年学校がどんなところだったのか、本書でその一端を知ることができたのですが、新聞記事から紹介される昭和20年8月15日以降の身近な出来事も、興味深いものがありました。また西村さんが公務員を辞めてから、売れない時代を経てベストセラー作家になっていく話も面白く、なかでもコンクールで賞金を獲得するために、審査員を分析し、審査員の好みそうな作品を書いて狙い通り入選したエピソードは、本人は必死だったのでしょうが、「なるほど」と思わず感心してしまいました。

第三章では、非合理で精神論がまかり通る日本の戦いぶりから、「日本人は戦争に向いていない」と言っています。西村さんが本書で一番言いたかったことだ思いますが、要は「戦争なんかもうするな」ということでしょう。また東条英機の戦陣訓について、これがあったから軍人だけでなく、多くの民間人も犠牲になったと強く非難しています。「生き残ることは恥ずかしいことだ」という言葉に縛られて、何の罪もない女性や子どもまでが無理やり自決されられるというのは、あまりに惨いことで言葉もありません。

『週刊東洋経済』(2017年9月2日号)に掲載された本書に関する西村さんのインタビュー記事によると、本書を書くきっかけとなったのは「若い編集者がB29のことも知らない。まもなく戦争のことを誰も彼もが知らなくなってしまう。みんなが知らないなら僕が書いておこうと。」ということだそうです。
終戦から70年以上が経ち、戦争経験者は少なくなる一方です。本書に出てくる史実はよく知られているものも多いですが、西村さんのような著名な方が実体験を通して戦争のことを書くというのは、とても意義のあることだと思います。

次は、その思いを受け取った私たちの責任が問われることになってきます。

読後感(考えされられた)

『MINIATURE LIFE展 田中達也 見立ての世界』へ行ってきました

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新宿髙島屋で開催中の『MINIATURE LIFE展 田中達也 見立ての世界』へ行ってきました。

田中さんは、身の回りのものを題材にして見立てた写真作品を数多く発表している、ミニチュア写真家です。NHKの朝ドラ『ひよっこ』のタイトルバックがとても印象的で、しかも実写と聞いて驚いたのですが、私はこの作品で田中さんのことを初めて知りました。

会場では、田中さんの代表作から新作まで100点ほどが展示されていて、写真だけでなくミニチュア作品の実物もいくつか見ることができます。どの作品もアイデアにあふれていて、面白いもの、感心するものばかりで、田中さんが創り出すミニチュアの世界を楽しく堪能しました。

この作品展は新作を除き、写真撮影が自由。思わずたくさん撮ってしまったのですが、デジカメを持って行かなかったのが少し悔やまれます。

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『戦禍に生きた演劇人たち 演出家・八田元夫と「桜隊」の悲劇』を読みました

戦禍に生きた演劇人たち 演出家・八田元夫と「桜隊」の悲劇

2017年72冊目の読了は、『戦禍に生きた演劇人たち 演出家・八田元夫と「桜隊」の悲劇』(堀川惠子/講談社 初版2017年7月6日)です。新聞広告で本書のことを知り、手にとりました。堀川さんの著書を読んだのは『教誨師』(講談社)以来です。

本書は、演出家の八田元夫(1903-1976)の生涯を軸に、大正から昭和にかけての演劇界(新劇)の歩み、弾圧と戦争の時代における演劇人たちの様々な人間模様、そして広島で被爆した移動劇団「桜隊」の悲劇を、八田の遺品や多くの資料・文献などもとに描いたものです。著者の堀川さんは、「桜隊」の取材を足掛け14年に渡り重ねてきて、本書はその中で生まれたそうです。

私自身は、「桜隊」のことは少しだけ知っていましたが、演劇界に詳しいわけでも関心が高いというわけでもありません。八田元夫のことも、本書で初めて知ったくらいです。しかし、堀川さんの丹念な取材・調査をもとに進む「桜隊」の悲劇につながっていく物語に、心は強くひきつけられ、とても読み応えがありました。

治安維持法による拷問・弾圧、検閲による作品の無残な改変、それに抗うこともできない自分との葛藤。過酷な状況は痛々しいものがありますが、そんな暗く重い時代でも演劇を愛し、演劇とともに生きていこうとする演劇人たちの姿には心が打たれました。けれど、その思いを知るほど、物語終盤の「桜隊」の悲しみが一層深いものとなって心を覆います。読むのもつらくなるほどの広島の惨状の中で、劇団員を必死に探しまわり、そして役者・丸山定夫の最期を見届けることになった八田の姿は胸に迫るものがありました。

堀川さんはあとがきで、夢と希望に満ち溢れているはずの演劇界が、イデオロギーや国家によって蹂躙された時代に生まれついてしまった演劇人たちの無念さを語っています。今日、「表現の自由」は当然のように考えられていて、その重みに思いを致すことはほとんどありません。しかし、本当はとても脆いものであり、私たちにはそれを守っていく努力が求められるのだと思います。演劇人たちの無念の思いを決して忘れてはならない、そしてあのような時代には二度としてはならない、本書を読んで強く思いました。

読後感(とてもよかった)