えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『本物の思考力』を読みました

本物の思考力 (小学館新書)

2017年77冊目の読了は、『本物の思考力』(出口治明/小学館新書 初版2017年4月4日)です。8月に読んだ出口さんの『教養は児童書で学べ』(光文社新書)がずっと印象に残っていたところ、書店で本書が目にとまり手にとりました。

本書は、「本質を見極める力」と「本物の思考力」を高める方法を、“出口流”の考え方で解説したものです。もっとも、本書では今の日本の社会や日本の教育などに対する出口さんの鋭い指摘もあって、単なるノウハウ本の類とはひと味違います。第1章に出てくる日本礼賛ブームへの疑問や日本の労働慣行・労働環境に対するある種の危機感、また保育所建設に反対する住民への批判など首肯するところが多くありました。

出口さんは、物事について“数字”や“ファクト”を使って考え、“ロジック”に基づいて理解し、納得して初めて、知識や経験が自分の血肉になる(=「腹に落ちる」)。そうして「腹落ち」させることが、思考力を鍛え、優れたアウトプットや意味あるコミュニケーションへ繋がっていくと言っています。言われてすぐにできるほど簡単ではないでしょうが、大事なことはよくよくわかります。本書で紹介されている「イエス・ノーゲーム」をする、土俵を整理する、「ラディカル」に考える、「人・本・旅」でインプットする、頭の中の引き出しを整理するといったことをヒントにして、まずは「腹に落ちるまで考え抜く」ことを自分なり意識してみようと思いました。

出口さんは人生や仕事についても語っています。「置かれた場所で咲くことにこだわる必要はない」「失敗しても、必ずしも挽回する必要はない」「人生は51対49で構わない」といった言葉は、若い人の励みになるでしょうが、私のような世代にとっても心に響きます。

最後に「やりたいことや、おもしろいことにもっとチャレンジしようと」出口さんは呼びかけています。ついつい心でブレーキをかけたり、億劫になったりする自分への戒めの言葉となりました。

読後感(よかった)

『くらべる東西』と『くらべる値段』を読みました

くらべる東西

くらべる値段

2017年75冊目の読了は『くらべる東西』、76冊目は『くらべる値段』です。(おかべたかし・文 山出高士・写真/東京書籍 初版[東西] 2016年6月13日[値段]2017年8月18日)書店で『くらべる値段』が目にはいり、先に出た『くらべる東西』と『くらべる時代』も同じ棚に置いてあったのですが、『くらべる東西』と『くらべる値段』が面白そうなので買い求めました。
それぞれ比べるものを34テーマ取り上げ、1つのテーマを4ページで構成。前半2ページで比べるものの写真、後半2ページで解説や関連情報を掲載しています。

『くらべる東西』では、東(主に関東)と西(主に関西)の違いを比べています。比べているのは、「いなり寿司」「おでん」「カルタ」「金封」「コマ」「七味唐辛子」「桜餅」「座布団」「縄文土器」「線香花火」「ぜんざい」「銭湯」「タクシー」「タマゴサンド」「だるま」「ちらし寿司」「ねぎ」「ネコ」「のれん」「ひなあられ」「ひな人形」「火鉢」「骨抜き」「落語家」など。
よく知られているもの、それほど違わないもの、ネコの尻尾のように初めて知ったもの、いろいろありますが、実際に写真で見比べると面白いものがあります。

比べる話ではありませんが、カレーライスに生卵をかけるエピソードが出てきます。私も転勤で初めて関西に住んだとき、その食べ方には本当にびっくりしました。東西に限らず、土地ごとの文化、風習の違いというのは興趣が尽きません。

『くらべる値段』では、身の周りの品を取り上げて安いものと高いものを比較し、値段が違う理由を解説しています。取り上げているのは、「うな重」「羽毛ふとん」「おろし金」「カステラ」「カニ缶」「かまぼこ」「ギター」「サッカーボール」「財布」「椎茸」「寿司」「炭」「畳」「机」「海苔」「フライパン」「ヘッドフォン」「包丁」「本」「盆栽」「巻き簾」「万年筆」など。
どれも100円ショップの商品と高級品を比べているというわけではなく、同じお店、同じメーカーのなかで値段を比べています。安いといっても値が張るもの、値段にそれほど差がないものもありますが、値段が違う理由はよくわかりました。

本のなかで「安いものには努力があり、高いものには夢がある」という言葉が出てきます。50万円の羽毛ふとん(安いのは5万円)はとても無理でしょうが、6,600円のカステラ(安いのは1,250円)、3,600円のかまぼこ(安いのは300円)なら何とか夢はかないそうです。

2冊ともランクを競うものでもなく、優劣をつけるものでもなく、写真を見ながら気軽に楽しく読むことができました。

読後感(おもしろかった)

『しっくりこない日本語』を読みました

しっくりこない日本語(小学館新書)

2017年74冊目の読了は、『しっくりこない日本語』(北原保雄/小学館新書 初版2017年8月6日)です。書店で目にして手にとりました。

北原氏は筑波大学の元学長で著名な国語学者。多くの国語・古語辞典の編纂に携わっていて、著書も多数執筆されています。類著もあるようですが、本書は地方紙の『新潟日報』、大修館書店の『国語教室』の掲載記事などを中心にまとめたものだそうです。

本書では、前半で北原氏が日ごろ見聞きする「変な日本語 気になる日本語」を取り上げて、どこが変なのか何が問題なのかを解説し、さらに「世相を映して生まれる日本語・間違えやすい日本語」を取り上げて、言葉の意味を明らかにしながら著者の感じたところを書き綴っています。そして後半では、フリーアナウンサーで日本語にも造詣が深い梶原しげる氏との対談、そして文化庁国語審査官で北原氏の教え子でもある鈴木仁也氏との対談が収録されていて、今の日本語について語り合っています。

言葉は変遷するので、日本語の乱れとか変な表現というのは、今に始まったものではないのでしょうが、それでも国語学者からすると気になって仕方ないというのがよくわかります。私も、北原氏の指摘にはうなずくことの方が多かったのですが、「世間ずれ」や「噴飯もの」正しい意味、また「絆を深める」という表現について、絆は「つな」なので「強める」「太い」などが正しく、「深める」はおかしいということは、本書で知ることになりました。

手紙ではなくメールを使うようになり、そしてLINEを使って主語も述語もない「打ち言葉」でコミュニケーションを交わすようになり、これから言葉はますます変わっていきそうです。本書で一番驚いた言葉は「ごきぶり」。「ごきげんよう、お久しぶり」ということだそうですが、教えてもらわないと意味はわかりません。こんな言葉が普通に飛び交うようになるのは勘弁してほしいと思います。

読後感(面白かった)