えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

NHK交響楽団「第九演奏会」

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昨日、サントリーホールでNHK交響楽団の「第九演奏会」があり、足を運びました。

クラシックのコンサートにはよく行きますが、「年末は第九」と思ったことはありません。

けれど、コロナ禍にある今年は特別。「聴きたい」という思いが募り、早くからチケットを買って、心待ちにしていました。

昨日は、勝山雅世さんのパイプオルガンの演奏のあとに、第九というプログラム。

勝山さんは、バッハの「G線上のアリア」とコラール「主よ、人の望みの喜びよ」を演奏したのですが、パイプオルガンの深い響きに、心が洗われるようでした。

第九の指揮は、スペイン出身のパブロ・エラス・カサド。ソリストは、ソプラノ髙橋絵理、メゾ・ソプラノ加納悦子、テノール宮里直樹、バリトン谷口伸。合唱は新国立劇場合唱団。

カサドさんの指揮は、躍動感にあふれ、ややアップテンポ。それに応えてN響の演奏も引き締まった感じ。最終楽章はもちろん、壮大な第一楽章と美しい第三楽章も聴きごたえ十分でした。

そして、「歓喜の歌」は強く印象に残るもの。
コロナの影響で、ソリストと合唱団はステージの後方客席(Pブロック)に一人置きに立ち、しかも合唱団は総勢40人。

見たことのない光景に戸惑いを覚えましたが、冒頭のバリトンの独唱を聴いてすぐに、余計な心配だと気づくことに。

平常時と変わらぬ、ソリストと合唱団それぞれの見事な歌声がホールに響き渡り、何ともいえない高揚感に包まれました。

終演後、オケが舞台を去っても、たくさんの聴衆が残り、拍手は鳴り止まず。

カサドさん、4人のソリスト、そして合唱指揮の三澤洋史さんが、何度もカーテンコールに応えたのですが、ソプラノの髙橋さんの涙ぐんでいる様子を見て、こちらも胸が熱くなりました。

ステージと客席の間で、いろいろな思いが交差したに違いありません。

来年は、コロナを気にすることなく、心の底から「歓喜の歌」が歌いあげられることを願うばかりです。

『非国民な女たち』を読みました。

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2020年43冊目の読書レポートは『非国民な女たち』(著 飯田未希/中公選書/初版2020年11月10日)。書店で目にして手に取りました。

「贅沢は敵だ」と「欲しがりません勝つまでは」は戦時中の戦争標語として、よく知られています。

そして「パーマネントはやめましょう」も、この時代を表すものとして、人口に膾炙した言葉です。

本書は、立命館大学教授で社会学、文化研究を専門とする著者が、節約と自粛が求められた戦時下おける「女性の髪形と服装」という女性ならではの視点から、ひと味違う歴史を掘り起こしたもの。

著者は、戦時中の文献や資料を丹念に読み解き、当時の写真を数多く示しながら、「非国民」と非難・中傷されながらもパーマをかける女性たち、モンペには見向きもせず服装にこだわる女性たち、そしてそんな女性たちのために奮闘する美容師や洋装家の姿を映し出し、当時の社会の様相を明らかにしていきます。

戦争標語のイメージが強いせいか、戦時中の女性はパーマなどかけることはなく、またスカートなど身に着けず、モンペを多用していたと思い込んでいました。

ところが本書によれば、幾度もパーマネント禁止が呼びかけられたにもかかわらず、女性たちのパーマネントを求める気持は衰えず、大都市だけでなく、地方でも美容院は繁盛。

モンペは不人気で、東京では1943年頃でも、「ハイヒールにスカート」といった女性がまだ相当数いた。

思いがけない事実に、長年の思い込みや戦時中のイメージは見事に覆されてしまいました。

パーマ機が供出されて木炭パーマに代わっても、配給の木炭(本来は料理に使われるべきもの)を手に美容院に並んだとか、空襲警報が鳴っても防空壕の中でパーマをかけたといったエピソードは驚くばかり。

女性の“美しさを求める心”は、戦争も脇に追いやってしまうほどですが、不安な時代だからこそ、違う方向に気持ちが向かうということは、あるかもしれません。

一方、美容業界の団体を結成したり、戦時にふさわしい髪型や婦人服を考えたりして、困難を乗り越えようとする美容師や洋装家の姿も印象的。

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(本書 P66)

女心に応えたいということもあったでしょうが、戦争に協力する姿勢を示さなければ生き残れない時代であったことが、よくわかります。

ただそんな時代であっても、パーマネントを擁護する読者投稿が新聞に掲載される。岩手ではパーマネント事業者が婦人会と対決して勝利する。女性教諭が厚生省に出向き、国の制定した婦人標準服を「みすぼらしい」とねじ込む…。

同調圧力は相当強いはずなのに、「右へならえ」の号令には反発もあったということで、よく言われる“戦時一色”とは異なる面が社会にはあったということも、本書で知ることができました。

世の中には知られていない歴史がたくさんあり、その中にこそ真実がつまっていそうです。

NHK交響楽団12月公演(東京芸術劇場)

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東京芸術劇場でNHK交響楽団の公演があり、池袋まで足を運びました。N響の演奏会は今月2回目です。

今日は、秋山和慶さんの指揮で、オールベートーヴェンプログラム。
前半は、『「エグモント」序曲』と『弦楽四重奏曲第11番「セリオーソ」(弦楽合奏版)。

秋山さんの指揮は、いつものように「端正」という言葉がぴったり。N響もそれに応えて、安定感抜群。

『セリオーソ』は初めて聴きましたが、幾重にも重なった弦の音色が印象的で、特にコントラバスの深い響きが、今も耳に残っています。

後半は、諏訪内晶子さんのヴァイオリンで、『ヴァイオリン協奏曲ニ長調』。

諏訪内さんは言うまでもなく、日本を代表するヴァイオリニスト。
舞台に登場したときから、華やかオーラを醸し出していましたが、力強さと繊細さが織りなす演奏はまさに流麗。

舞台から一瞬たりとも目が離せず、諏訪内さんと響き合う木管の柔らかい音とともに、じっくり聞き入ってしまいました。

今日はベートーヴェンを堪能した日。満足感いっぱいです。