えむと、メモランダム

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“伊東四朗生誕?!80+3周年記念”『みんながらくた』を観ました。

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下北沢の本多劇場で上演中の、“伊東四朗生誕?!80+3周年記念”『みんながらくた』を観ました。

伊東四朗さんが舞台に立つのは3年ぶりとのこと。
戸田恵子さん、竹内郁子さん、ラサール石井さん、小倉久寛さんといった面々に加え、堺正章さんの娘さんの堺小春さんが共演するということで、とても楽しみにしていました。

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作品は、古典落語(多分「井戸の茶碗」)をベースにしたもので、リサイクルショップに持ち込まれた「仏像」をめぐる一騒動。

リサイクルショップの店主を伊東さん、その娘を戸田さんが演じるのですが、“マッチングアプリ”や“引きこもり”といった今を感じさせる話題を織り交ぜながら、3組の家族の泣き笑いが展開されます。

大がかりな舞台装置があるわけでなく、捧腹絶倒の場面もありませんが、何気ない会話の中に面白みを感じる喜劇らしい喜劇。

出演者の皆さんが繰り広げる個性的で、それでいて自然体の演技で人情の機微が伝わってきて、心が温まる思いがしました。

コロナで世の中が何となく落ち着かないだけに、こういった芝居に気持ちが和むのかもしれません。

ところでこの公演では、出演者が、観客から寄せられた感想を、カーテンコールの舞台上で読み上げることになっているようです。

私が観た日は、伊東さん(いつも伊東さんかもしれません)が紹介したのですが、思いがけない内容に出演者と観客が一緒になって笑うこともあって、舞台と客席の距離が一気に縮まった感じがしました。

それにしても、伊東さんの存在感はさすがです。見るものを引き付け、とても83歳(今年6月には84歳だそうです)とは思えません。

これからも、元気に活躍してほしいものです。

『「顔」の進化 あなたの顔はどこからきたのか』を読みました。

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2021年8冊目の読書レポートは『「顔」の進化 あなたの顔はどこからきたのか』(著 馬場悠男/ブルーバックス/初版2021年1月20日)。

書店で目にして手にとりました。カバーの瞳が目立ちますが、帯がマスクになっているところに、今を感じます。

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(帯をはずしたカバー)

本書は、人類が学者の著者が、ヒトと動物の顔について、進化の過程や特徴(“顔の由来と不思議”)を説き明かす一冊。

「そもそも顔とは何か」から始まり、動物の顔の起源と進化、ヒトの顔の特徴、人種・性別による顔の違い、ヒトの顔の進化、そして日本人の顔の変遷について、イラスト、写真、復元図、立体モデル図などをふんだんに使いながら探っていきます。

ウマ・ネコ・イヌの顔の違い、ヒトの顔の皮膚が露出している意味、眼がふたつで、ヒトの眼が横長の理由、鼻毛の役割、人種による皮膚の色の違い、アジア人の顔が平坦なわけ…。

次々に知る “進化のなぜ”には驚くばかりでしたが、日本人のルーツでもある北方アジア人の「顔は平ら、目は小さく一重瞼、眉・睫毛・唇が小さい」という特徴は、アフリカからやってきたサピエンスが、厳寒に適応するために進化してきた結果といった話に、悠久の時を感じました。

面白かったのは、骨格をもとに再現された日本人の顔の変遷図と、著者の作成した未来の顔のCG写真。

北方アジア人が日本にもやって来て、古墳時代、鎌倉時代、江戸時代、現代と、時代が下るにつれて、顔も少しずつ変化していく様子は目を引きます。

著者によれば、食生活は顔の形に大きく影響していて、硬いものを食べなくなった日本人の顔は、狭く華奢になっているとのこと。

確かに、昭和の顔(私もそうですが)は大きく、平成の顔は小さい印象がありますが、このままいくと、著者が予測した未来人が本当に誕生するかもしれません。

ただ狭く華奢な顔は、咀嚼機能(歯並び)に問題を起こすそうで、健康にも少なからず影響があるでしょう。

未来人の「コーンの上に丸いアイスクリームをおまけして載せたような顔」も見るからにひ弱そうで、“進化”ではなく“退化”としか思えません。

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未来の日本人の顔(P258)

著者は、学校給食を通して、子どもたちに大きく硬いものを食べさせる取り組みをしているそうです。

今、世の中では“小顔”がもてはやされていますが、顔の筋肉と骨を鍛えることに、もっと関心を向ければ、未来の日本人から感謝されるに違いありません。

『ふだん使いの言語学 「ことばの基礎力」を鍛えるヒント』を読みました。

ふだん使いの言語学: 「ことばの基礎力」を鍛えるヒント (新潮選書)

2021年7冊目の読書レポートは『ふだん使いの言語学 「ことばの基礎力」を鍛えるヒント』(著 川添愛/新潮選書/初版2021年1月25日)。書店で目にして手に取りました。

仕事柄、契約書の文言を考えるのは日常的なことですが、頼まれて、抗議状やお詫び状といった手紙の文面を考えることもよくあります。

事情が込みいっているだけに、こちらの主張や意図をどう伝えるか、言葉の選択や文の組み立てに考え悩まないことはありません。

本書は、言語学者である著者が、理論言語学を切り口として、“言葉の力”をブラッシュアップするための手がかりを教えてくれる一冊。

理論言語学というのは、“無意識の言語知識”を研究対象とする学問だそうですが、著者によれば、理論言語学には「ことばの基礎力」を鍛えるヒントが豊富に詰まっているとのこと。

そこで本書では、まず、ありがちな“コミュニケーションの失敗例”や“どこかしら変な文”を数多く示して“無意識の言語知識”とはどういうものかを説明し、日常の言葉について再考。

さらに「置き換え」「入れ替え」といった、言語学で使われている言葉の分析手法を、実践例をもとに解説し、言葉についてさらに深掘り。

そして、「ありがちな相談の答えを考える」というスタイルで、よくある言葉の問題への対処方法を探り、理論言語学が日常でどのように使えるかみていきます。

世の中には、“文章作法”的な書物は数多くありますが、学問的な視点から、日常的な言葉づかいについて考えるというのは新鮮で、あたかも著者の講義を受けているよう。

といっても、決して難しいものではなく、具体的な事例をもとに進む話はわかりやすく実践的で、とても参考になります。

中でも目に留まったのは、助詞の「は」は旧情報に付き「が」は新情報に付く、かたまりの「最後」がかたまりの中心的要素の定位置である、「言葉に現れない要素」が複数絡むと可能な解釈が一気に増える、大きな主語や「一般論に広げすぎる」ことに気をつける、といった指摘。

日々の仕事にもすぐに役立つもので、これだけでも本書を手にした甲斐があったというものです。

SNSやメールなど、文章を書く場面が増えていますが、言いたいことをしっかり伝えるためには、まずは自分の言葉への意識を高めること、そして手間を惜しんではいけないことを今更ながら思い知りました。