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『昭和の怪物 七つの謎』を読みました

昭和の怪物 七つの謎 (講談社現代新書)

2018年56冊目の読了は、『昭和の怪物 七つの謎』(著 保阪正康/講談社現代新書 初版2018年7月20日)。ベストセラーになっているということで、手に取ってみました。

著者の保阪氏は、昭和史研究で著名なノンフィクション作家。著書も多数ありますが、本書では、東條英機、石原莞爾、犬養毅、渡辺和子、瀬島龍三、吉田茂の6名を取り上げ、保阪氏が本人、親族、関係者から直接聞き取った証言を交えながら、それぞれの人物についてあまり語られることのないエピソードを紹介。戦前から戦後間もない時期の日本の深層を浮かび上がらせています。

-東條英機は、首相指名は自分でも晴天の霹靂であり、戦争を避けられなかったことについて昭和天皇に対し負い目があった、また東條英機暗殺計画が実行寸前であった。

-テロの犠牲者であるはずの犬養毅の家族が、人々から後ろ指をさされ、嫌がらせを受けていた。

-シスターであり教育者である渡辺和子さんであっても、陸軍教育総監であった父親の渡辺錠太郎が銃撃された「二・二六事件」は決して“赦し”の対象とはならず、事件の黒幕に腹を立てていた。

-ポツダム宣言にある「戦争責任裁判」を日本側で独自に行う構想があった。

話はこれに留まらず、次々に出てくる“秘話”に興味は尽きませんでした。

また、謎の多い瀬島龍三氏の言動をとらえて語られる、軍官僚と軍部の体質についての話も印象的です。

「都合の悪いことは決して口にしない」、「自らの意見は常に他人の意見をかたり、本音は言わない」、「ある事実を語ることで『全体的』と理解させる」、「相手の知識量、情報量に会わせて自説を語る」、「一次資料の改竄も厭わない」。

保阪氏の指摘は鋭いですが、先頃の「加計・森友」問題を見れば、「嘘」「ごまかし」「改竄」は当時の軍部だけでなく、今の官僚たちに通じるものがあるという指摘も、否定しがたいものがあります。

それにしても、誰もがその器ではないと思っていた東條が、木戸内大臣の思惑で首相となり、精神論を頼りに大国相手に戦争を指導したことは、日本にとってとんでもない“悲劇”だったとしかいいようがありません。

誰が首相になっても、戦争を避けることはできなかったかもしれませんが、もしも違う人物がリーダーであったら、戦争はもっと早く終結し、救えた命もたくさんあったかもしれないとついつい思ってしまいます。

本書を読んで、歴史の表には出てこない知られざる事実が、ときに歴史を動かすことを教えてもらい、歴史の奥深さを改めて実感しました。

読後感(面白かった)