えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『凶暴老人 認知科学が解明する「老い」の正体』を読みました

凶暴老人: 認知科学が解明する「老い」の正体 (小学館新書)

2018年71冊目の読了は、『凶暴老人 認知科学が解明する「老い」の正体』(著 川合伸幸 /小学館新書 初版2018年10月8日)です。書店で目にして手に取りました。

最近、商店や駅などで暴言を吐いたり、食ってかかったりする“キレる高齢者”が目につくと言われています。私もついこの間、東京駅で、杖で床をたたきながら大声で怒っているおじいさんを目撃して、その剣幕に驚いてしまいました。

本書は、認知科学の専門家である著者が、数々の実験データや調査・研究結果をもとに、高齢者がキレる理由、怒りと脳の関係、認知能力の鍛え方、そして高齢者と社会との関係について解説したものです。

本書では、歳を重ねて前頭葉の働きが低下することに伴い、高齢者は衝動を抑えるのが苦手になること、アクセルとブレーキの踏み間違いといった高齢者の事故も前頭葉の働きが大きく影響していること、前頭葉の機能と怒りやすさは関係していて、実行機能が弱い人ほど攻撃性が高いことなどが明らかにされています。

もっとも、前頭葉の働きが低下するからといって、高齢者の誰もが“キレる”わけではありません。著者は、日本の社会は高齢者に親しみを感じておらず、そんな冷たい社会からの孤立が高齢者の暴言・暴行につながると指摘し、高齢者を孤立させないような取り組みが必要だとしています。

日本の人口に占める高齢者の割合は25%を超えました。高齢者の犯罪は増加傾向にあると言われていますが、それは高齢者の人数が増えたから。冷静に考えると、“キレる高齢者”も今に始まったことでなく、そういう人を目にする機会が増えただけのことで、そもそも、そんなに大騒ぎするほどの問題ではないのかもしれません。

しかしたとえそうであったとしても、高齢者の言動に理解がないと、感情をうまくコントロールできず、動作が緩慢で、暴言を吐く高齢者にただ戸惑うばかりとなり、「老人は困った存在」というイメージだけが膨らんでしまいます。

ただそれは、ともすると高齢者の排除につながりかねないもの。少子高齢化がさらに進む日本の社会にとって、決して望ましいことではないはずです。

もちろん、キレない(孤立しない)ための高齢者自身の自助努力も必要でしょう。しかし本書を読んで、“キレる高齢者”を単に老人特有の問題として片づけるのではなく、“キレる高齢者”を少なくする社会、“キレる高齢者”を異端視しない社会を作っていくことが求められていると思わずにはいられませんでした。

読後感(考えさせられた)

『昭和少年少女ときめき図鑑』を読みました

昭和少年少女ときめき図鑑 (らんぷの本)

2018年70冊目の読了は、『昭和少年少女ときめき図鑑』(著 市橋芳則 伊藤明良/河出書房新社 初版2018年9月30日)です。書店で目にして手に取りました。図鑑なので(と言ってもA5版の単行本ですが)、“読了”というよりは、“見終わった”の方がふさわしいかもしれません。

本書は、愛知県北名古屋市にある、北名古屋市歴史民俗資料館(別名「昭和日常博物館」)のコレクションを紹介したものです。この博物館のことは本書で初めて知りましたが、昭和時代(メインは昭和30年代、40年代のようです)のありふれた日常生活のなかで使われた様々なものを収集・展示し、また収集品を利用して、高齢者ケア・認知症予防といった取り組みも行っているそうです。

本書では、その収集品を中心として、昭和30年代から40年代が少年・少女時代であった人にとって懐かしい品々が、5つの章に分けて、当時の写真や資料などとともに数多く登場します。

まず第1章「幼い頃のハジメテ・トキメキの体験」では、幼児玩具、三輪車、遊園地の乗り物、入園・入学用品などが出てきて初めての体験を振り返ります。次に第2章「少年少女のあこがれ・羨望の的」では、おもちゃ、駄菓子屋、ボードゲーム、少年・少女雑誌や文房具などが、第3章「かわいいを身にまとう」では、当時の子供服、アップリケ、あこがれのファッション(おもに女の子)などが、さらに第4章「大好物はどんなもの?」では、カレー、キャラメル、ドロップ、牛乳・乳酸菌飲料、粉末ジュースなどが紹介され、そして第5章「暮らしのデザイン」では、花柄、エジプト柄といったデザインと貯金箱、こけし、合体家電などが出てきます。

昭和40年代は私の少年時代とちょうど重なります。私はまさに本書のターゲット世代で、ページをめくるたびに心の中で“懐かしい”を連発。それとともに、補助輪なしで初めて自転車に乗れたときのこと、「野球盤」を買ってもらって飛び上がらんばかりに嬉しかったこと、粉末ジュースの素で作ったジュース(ソーダもありました)を喜んで飲んでいたこと、あげたら切がないくらい当時の思い出が次々に甦ってきました。

また、本書で印象に残ったことの一つに、掲載されているスナップ写真があります。同時代なので当然といえば当然なのですが、私のアルバムにもよく似た感じの写真があることが思い出されて、“時代”というものが持つ面白さを発見した気がしました。

「ブリキのおもちゃ」、「めんこ」、「ソノシート」など今ではすっかり見かけなくなったものもたくさんあります。しかし、物はなくなっても、それにまつわる記憶は消えることがありません。普段意識することはありませんが、人生に彩りをそえるかけがえのないものになっています。

機会があれば、収集品の実物をぜひ見たいものです。

読後感(楽しかった)

『政権奪取論 強い野党の作り方』を読みました

政権奪取論 強い野党の作り方 (朝日新書)

今年69冊目の読了は、『政権奪取論 強い野党の作り方』(著 橋下徹/朝日新書 初版2018年9月30日)です。

著者の橋下氏と朝日新聞出版との間では、6年前に大きなトラブル(いわゆる「週刊朝日事件」)が起きています。すでに和解をしているので、何ら問題はないのでしょうが、それでも本書が朝日新聞出版から発刊されたことに、まず驚いてしまいました。

本書は、「今の日本には、与党に緊張感を与える野党が必要」だとする橋下氏が、その理由を明らかにしたうえで、大阪府知事・大阪市長の経験や、「大阪維新の会」「日本維新の会」の活動も踏まえて、“強い野党”を作るための具体的な方策を示したものです。

橋下氏は、2012年に政権復帰した後の自民党の“変貌”を例にあげ、強い野党が存在し、政治的な切磋琢磨があり、政権交代が起こることが、日本の民主政治をステップアップすると述べています。

確かに、与党と野党が国民のことを考えた政策とその実行力を磨き合うようになれば、自ずと国民のための政治が実現していくでしょう。強い野党が存在しているなら、官僚が政治家を過度に忖度したり、保身に走ったりすることもないかもしれません。

ところが、本書では“融通無碍”という言葉で言い表される自民党の底知れぬ強さと、それと対照的な野党のひ弱さ、硬直した姿が目につくばかり。民主党政権のトラウマもなかなか消えず、現実は厳しいと言わざるを得ません。

橋下氏は、自民党に対抗できる強い野党を作るには、まず自民党とは異なる方向性・ビジョンを示し、有権者のニーズを合理的・科学的に「マーケティング」して政策を磨くこと、地方政治で「実行力」を示し信頼を勝ち取ること、そして意思決定がきちんとできる「強固な組織」を作ることが必要だとしています。

本書ではそれぞれのポイントについて詳しく説明がされていますが、内容は簡潔明瞭で、学者や評論家にはない説得力もあります。しかし橋下氏も認める通り、60年以上の歴史と強い組織力を誇る自民党に対抗できる野党が一朝一夕にできるはずはありません。橋下氏が言うように、50年かけるくらいの覚悟と地道な努力は欠かせないのでしょう。

もっとも、せっかくレシピがあっても、料理がなければ誰も味合うことはできません。本書を読みながらずっと思っていたのは、橋下氏の考えを具現化しようとする人が果たして現れるのだろうかということ。今の野党にはあまり期待できず、ここまでの思いがあるのなら、あり得ないかもしれませんが、橋下氏がもう一度政界に復帰し、自らの手で進めていった方が話は早そうです。

本書では、橋下氏の大阪府知事・大阪市長時代の仕事ぶりも強く印象に残りました。賛否両論、軋轢はつきものだったでしょうが、やることは首尾一貫していて、何にせよ、実行力は際立っています。また、大阪都構想のねらい、文化予算の見直し等々、初めて知った事実にこれまでの見方は一新させられ、橋下氏に持っていたイメージも違ったものになりました。

やはり、橋下氏がオーナーシェフとなり、自分が考えたレシピにそって「強い野党」を作ってもらうのが良さそうな気がしてきます。

読後感(面白かった)