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『政権奪取論 強い野党の作り方』を読みました

政権奪取論 強い野党の作り方 (朝日新書)

今年69冊目の読了は、『政権奪取論 強い野党の作り方』(著 橋下徹/朝日新書 初版2018年9月30日)です。

著者の橋下氏と朝日新聞出版との間では、6年前に大きなトラブル(いわゆる「週刊朝日事件」)が起きています。すでに和解をしているので、何ら問題はないのでしょうが、それでも本書が朝日新聞出版から発刊されたことに、まず驚いてしまいました。

本書は、「今の日本には、与党に緊張感を与える野党が必要」だとする橋下氏が、その理由を明らかにしたうえで、大阪府知事・大阪市長の経験や、「大阪維新の会」「日本維新の会」の活動も踏まえて、“強い野党”を作るための具体的な方策を示したものです。

橋下氏は、2012年に政権復帰した後の自民党の“変貌”を例にあげ、強い野党が存在し、政治的な切磋琢磨があり、政権交代が起こることが、日本の民主政治をステップアップすると述べています。

確かに、与党と野党が国民のことを考えた政策とその実行力を磨き合うようになれば、自ずと国民のための政治が実現していくでしょう。強い野党が存在しているなら、官僚が政治家を過度に忖度したり、保身に走ったりすることもないかもしれません。

ところが、本書では“融通無碍”という言葉で言い表される自民党の底知れぬ強さと、それと対照的な野党のひ弱さ、硬直した姿が目につくばかり。民主党政権のトラウマもなかなか消えず、現実は厳しいと言わざるを得ません。

橋下氏は、自民党に対抗できる強い野党を作るには、まず自民党とは異なる方向性・ビジョンを示し、有権者のニーズを合理的・科学的に「マーケティング」して政策を磨くこと、地方政治で「実行力」を示し信頼を勝ち取ること、そして意思決定がきちんとできる「強固な組織」を作ることが必要だとしています。

本書ではそれぞれのポイントについて詳しく説明がされていますが、内容は簡潔明瞭で、学者や評論家にはない説得力もあります。しかし橋下氏も認める通り、60年以上の歴史と強い組織力を誇る自民党に対抗できる野党が一朝一夕にできるはずはありません。橋下氏が言うように、50年かけるくらいの覚悟と地道な努力は欠かせないのでしょう。

もっとも、せっかくレシピがあっても、料理がなければ誰も味合うことはできません。本書を読みながらずっと思っていたのは、橋下氏の考えを具現化しようとする人が果たして現れるのだろうかということ。今の野党にはあまり期待できず、ここまでの思いがあるのなら、あり得ないかもしれませんが、橋下氏がもう一度政界に復帰し、自らの手で進めていった方が話は早そうです。

本書では、橋下氏の大阪府知事・大阪市長時代の仕事ぶりも強く印象に残りました。賛否両論、軋轢はつきものだったでしょうが、やることは首尾一貫していて、何にせよ、実行力は際立っています。また、大阪都構想のねらい、文化予算の見直し等々、初めて知った事実にこれまでの見方は一新させられ、橋下氏に持っていたイメージも違ったものになりました。

やはり、橋下氏がオーナーシェフとなり、自分が考えたレシピにそって「強い野党」を作ってもらうのが良さそうな気がしてきます。

読後感(面白かった)