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読んだ本と出来事あれこれ

『日本軍兵士ーアジア・太平洋戦争の現実』を読みました

日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実 (中公新書)

2018年6冊目の読了は、『日本軍兵士ーアジア・太平洋戦争の現実』(吉田 裕/中公新書 初版2017年12月25日)です。書店で目にして、手に取りました。

本書は、一橋大学の教授で日本近現代軍事史・政治史の専門家である著者が、アジア・太平洋戦争における日本軍の現実の姿を「兵士の目線」と兵士に負荷をかけた「日本軍の軍事的特性」から解き明かしたものです.
アジア・太平洋戦争については個人的に関心が高く、読んだ本も結構あります。ただ、多くは開戦に至るまでの歴史的(政治的)経緯を書いたものや戦記的なもので、本書のような切り口で書かれたものを読んだのは初めてでした。

著者は、日本軍兵士が強いられた過酷で凄惨な体験や兵士の健康や疾病などの問題などについて、多くの文献・資料をもとに明らかにしています。巻末に参考文献が掲載されていますが、その数は相当のものです。

「餓死や自殺の異常な多さ(補給の無視と戦陣訓の存在が影響)」、「心身の疲弊」、「装備の劣悪化」、「非合理な精神主義」、「私的制裁の横行と軍紀の緩み」「老兵・少年兵の投入」。次々に示される事実には暗澹とさせられます。こんな状態で戦いに勝てるはずはないと改めて思いましたが、通信手段に伝書鳩を使っていたという話や部隊内でやくざの出入りまがいの私闘があったという話には、さすがに驚いてしまいました。

本書で心に残ったことの一つに海軍特別年少兵の記述があります。海軍特別年少兵は、海軍の中堅幹部の養成を目的として、14歳以上16歳未満の少年を採用して行われた制度ですが、実際は戦局の悪化によりすぐに実戦に配置され、第1期生3,200人からは2,000人、第2期生3,700人から1,200人もの戦死者を出したそうです。私の父がこの制度の最後となる第4期生で、当時の思い出話を聞かされたこともよくあったのですが、これほど多くの方が亡くなっているとはまったく知りませんでした。もう少し戦争が長引いていたら父も間違いなく戦場に赴いたはずで、なんとも言えない複雑な気持ちにさせられました。

著者は最近見られる「日本軍礼賛本」を意識して本書を書いたそうです。アジア・太平洋戦争に対する考え方は立場により様々あるのでしょうが、戦争で犠牲になる多くは一般兵士であり、本書で描かれている悲惨な現実は決して消し去ってはいけないものだと強く思いました。

読後感(考えさせられた)