えむと、メモランダム

読み散らした本と出来事あれこれ

『戦後ゼロ年 東京ブラックホール』を読みました

戦後ゼロ年 東京ブラックホール

2018年55冊目の読了は、『戦後ゼロ年 東京ブラックホール』(著 貴志謙介/NHK出版 初版2018年6月30日)。書店で目にして手に取りました。

本書は、昨年8月にTV放送されたNHKスペシャル『戦後ゼロ年 東京ブラックホール 1945-1946』が基になったもので、著者は番組のディレクターとして制作に携りました。

番組は、俳優の山田隆之さん演じる21世紀の若者が、焼け野原が広がる戦後ゼロ年[1945年~1946年]の東京にタイムスリップし、「焼け跡暮らし」「ヤミ市」「買い出し列車」「東京租界」といった生活を、当時の映像の中で追体験するという趣向のドキュメンタリー・ドラマ。私も見ましたが、映像と山田さんがうまく合成され、山田さんの視点から終戦直後の東京の姿を見ていくという手法に感心したことをよく覚えています。

ただ何といっても、番組で明らかにされる数々の事実には驚くばかり。廃墟のなかで、生きるか死ぬか瀬戸際の人々、それと対照的な進駐軍の兵士・家族の優雅な暮らし、国が音頭をとって用意した兵士相手の慰安施設、軍事物資の横領・隠匿・横流しとそれで成り上がる者たち、戦犯を免れ一転GHQに協力する元日本軍高級将校。初めて見る映像に目が釘付けになり、戦争に負け、秩序も権威も無くなると、こんな惨憺たることになるのかと思ってしまいました。

本書では、番組をなぞりながらも、資料・文献などによって厚みを加えて、放送するには差し障りがありそうなことも余すことなく書かれています。

ヤミ市の世界にあった「第三国人マーケット」の存在が警察とヤクザの関係を深めた。国民を戦争に駆り立てた軍人、政治家、官僚の多くが、国民のことなど忘れて、保身と利権の確保に走り、物資と情報を好き勝手に操作した。「国策売春施設」を準備するほど米軍の性暴力を恐れたのは、自分達(日本軍)が戦地でやったことが頭にあったから。進駐軍とのコネが混乱した社会で成功をつかむ最大の秘訣であり、闇社会最大の実力者は皇室とさえもつながりがあった。天皇をめぐる言論は、占領期の方が、いまよりはるかに自由闊達だった。

驚くこと、あきれること、やりきれないこと、考えさせられることが、次々に出てくるのですが、その中で特に印象に残ったのは、GHQの実態でした。

GHQによって戦前の“古い日本”が解体され戦後の民主化が進んだのはというのは、教科書でも習います。しかし本書を読むと、GHQ自体は必ずしも民主的とはいえず、また昨日まで敵だった軍人や右翼の大物を囲い込むなど、常に自分達、アメリカのために、“古い日本”をどうやって利用するかを考えていたことがよくわかります。

著者の「トランプ大統領を待つまでもなく、アメリカは冷戦時代から、強烈な“アメリカ・ファースト”の軍事国家で、その本質はいまも変わっていない」という言葉は、アメリカという国を考えるうえで強く心に残りました。

敗戦国である日本が、GHQの意のままになってしまうのは仕方ないことだったでしょう。しかし70年以上も昔、GHQとともに突如現れた得体の知れない「闇」が、わたしたちの社会に大きな影響を与え続けてきたことには、複雑な気持ちにならざるを得ません。

読後感(考えさせられた)