えむと、メモランダム

読み散らした本と出来事あれこれ

『新・養生訓 健康本のテイスティング』を読みました

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2019年58冊目の読書レポートは、『新・養生訓 健康本のテイスティング』(著 岩田健太郎・岩永直子/丸善出版 初版令和元年10月25日)。SNSで本書のことを知り、買い求めました。

日本は世界でも指折りの長寿国。ただそれでも「もっと健康になりたい」という願望を持つ人が多いのか、あるいは体の不調に悩んでいる人が多いのか、テレビでは健康をテーマにした番組が花盛り。書店に行けば、たくさんの「健康本」が並んでいます。

しかし本書の著者、神戸大学大学院教授の岩田健太郎先生によれば、健康本には読んで役に立つ本と、読むだけ無駄な本があるとのこと。

では、医学知識がない人でもそれを区別できるのか。本書は、その問いに答えるために、岩田先生とBuzzFeed Japanの編集者で医療ジャーナリストの岩永直子さんが、最近話題になった健康本10冊と、貝原益軒の『養生訓』を‟テイスティング”し、内容について話し合った対談本。

「医療情報」、「食事」、「睡眠」、「予防」といったテーマにそって、本の内容をクリティーク(批評)し、玉石混交の健康本の中で、良書の見極め方を明らかにしていきます。

もっとも、二人の話は本の批評に留まりません。本をきっかけに、「科学の本質」、「EBM(科学的根拠に基づく医療)の本質」、「医師の役割や働き方」、「日本の医療制度や教育制度」、「日本社会のあり様と日本人の意識・行動」、「出版社の姿勢」…。話はどんどん膨らんでいきます。

岩田先生の指摘は鋭く、説得力は十分。「そこまで言って大丈夫?」と思わせるようなフレーズも出てきますが、根拠が明確に示されていて反論は難しそう。

また、決して人物(あの人が書いているから全部だめ)ではなく、内容を是々非々でクールに判断しているので、隙はありません。

一方岩永さんも、著名な医療ジャーナリストだけあって、岩田先生に負けず劣らず医療に対する見識は確かなもの。

岩田先生の考えに同調しつつ、ときに敢然と反論。スリリングな雰囲気も伝わってきましたが、それがまた議論を深めることにつながっています。

「主張の裏付け・文献が明示されているか」、「成分主義は良くない」、「免疫力アップという話はたいていデタラメ」、「外国礼賛と日本礼賛は信用しない」といった、健康本の見きわめに直結する話は、もちろん有益だったのですが、印象に残ったのは、岩田先生の次のような言葉。

「効果を検証するのは割り算ではなく、引き算でみる」。「エフェクトサイズが大事」。「今あるデータではなく、今ないデータを見る」。「一般化できるもの、一般化できないものを分ける能力を身につける」。「世界の中の多くのことはハウツーじゃわからない」。「みんなで攻めて、みんなで守るのは“幼稚園児のサッカー”」。「大事なのは“自分が何を知らないのか”という自覚を持つこと」。

医療関係者に限らず、仕事を進めていくうえで、また物事を考えるうえで、大いに参考になります。本書が実用書のコーナーだけに並んでいるのは、勿体ないことです。

ただ、出版社に対する厳しい指摘は、同じ業界で働いている者として心が痛みます。

表現の自由は大事な権利。だからといって、自分たちの儲けのためだけに、根拠に乏しい健康本(健康本に限りませんが)を出版することが許されるとは思えません。

先日、朝日新聞に掲載された健康本の広告が問題となり、朝日新聞はすぐに「内容に問題があった」との見解を発表しました。

社会の意識は確実に変わっています。情報を世に送ることの責任を自覚しないと、出版市場はますますシュリンクしていきそうです。