えむと、メモランダム

読み散らした本と出来事あれこれ

『遺したい味 わたしの東京、わたしの京都』を読みました。

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2021年15冊目の読書レポートは『遺したい味 わたしの東京、わたしの京都』(著 平松洋子 姜尚美/淡交社/デザイン 有山達也 岩淵恵子 中本ちはる/初版2021年1月30日)。

書店で目にして手に取りました。表紙の“稲荷寿司”と“海苔巻き”に心が奪われます。

本書は、月刊『なごみ』(淡交社)に連載された「東西おいしい往復書簡」を書籍化したもの。

東京に暮らす平松さんと、京都に暮らす姜さんが、自分のまちの「遺したい味(お店)」をそれぞれ12軒厳選。

取材をもとに、お店の来歴や様子、店主の思いなどを、往復書簡という形で綴り、印象的な写真とともに、その魅力を紹介していきます。

平松さんによれば、「星の数ほどの店がひしめく東京にあって、わずか十二軒の店と味を選ぶのは大海の一滴をすくうに等しい行為」とのこと。

そんな中で、平松さんが選んだのは、神田まつや(蕎麦)、たぬき煎餅本店、しみずや(パン)、どぜう飯田屋、カフェ・バッハ、ぽん多本家(カツレツ)、四谷志乃多寿司(稲荷寿司・干瓢巻)、隨園別館新宿本店(中華調理)、シンスケ(居酒屋)、深川伊勢屋(餅菓子・食堂)、御料理山さき(鍋料理)、ドーカン(レストラン)。

たんにおいしい店、好きな店ではなく、その店が「東京という土地の深層に分け入る存在であること」、「まちに堆積する時間と空間を旅する杖になり得るか」を意識して、選んだそうです。

一方、姜さんが選んだのは、上七軒ふた葉(うどん)、鶴屋寿(桜餅)、進々堂京大北門前(カレーライス)、平野とうふ、鳴海餅本店(赤飯)、冨美家(うどん屋さんの中華そば)、ひさご寿し本店(蒸し寿司)、キートス(天然酵母パン)、イノダコーヒ三条支店、グリル富久屋(洋食)、すぐきや六郎兵衛(漬物)、一文字屋和輔(あぶり餅)。

姜さんの生活そのもので、「遺したいというより、失うと困るもの」、「自分が思う生活というものを信じていたら、自然とそばに遺っていた味」とのこと。

お店の選び方に、それぞれの個性が現れるは当然とはいえ、風土や文化、暮らし方が深く関わっているのは面白いものです。

感心したのは、 京都と東京の違いを表した姜さんの言葉。
“「そうしておくものだよ」とたしなめられるのが京都なら、「こうしたらどうだろう」と言い合えるのが東京という指摘は、なるほどと思います。

本書に登場するお店の多くは、庶民には縁のない高級店ではなく、普段使いができるところ。

お店の歴史、「おいしいものを作り、届けたい」という店主の思いやこだわり、そんな大切なものがぎっしり詰まった品々を知って、ぜひとも訪ねて、その味をあじわいたくなりました。

ところで、本書を読みながら思い出していたのが、“遺したい味”ならぬ自分自身の“遺したかった”懐かしい味のこと。

母親が作ってくれた「クジラ汁」(故郷新潟の郷土料理です)や自家製の「そうめんつゆ」、小さい頃に食べた近所の食堂の「冷やし中華」、学生時代によく通った町中華の「カツ丼」…。

もう記憶の中でしか味わうことができず、とても残念です。