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『教養としての社会保障』を読みました

教養としての社会保障

2017年78冊目の読了は、『教養としての社会保障』(香取照幸/東洋経済新報社 初版2017年6月1日)です。知人に勧められて7月に買い求めたものの、なかなか関心が向かず、読むのがついつい後回しになってしまいました。

本書は、元厚生労働省の官僚で内閣審議官として「社会保障・税一体改革」を取りまとめた著者が、日本の社会保障制度の全体像および社会保障と政治・経済の関わりについて3部構成で解説したものです。
第Ⅰ部「社会保障とは何か」では、社会保障の系譜・理念、社会保障の基本哲学、日本の社会保障の特徴と歴史、そして社会・経済・財政との関わりから、社会保障の基本が説明されています。第Ⅱ部「マクロから見た社会保障」では、人口減少と少子高齢化で“安心”が揺らぐ日本社会の姿や産業としての社会保障について見て行き、そのうえで国家財政との関係から日本が直面する課題とその解決の道筋を考えます。そして第Ⅲ部「日本再生のために社会保障ができること」では、社会を覆っている不安を払拭し、安心社会を実現するために行うべき改革の方向性が示され、具体的な提言がなされています。

本書を買った後、すぐに読もうという気にならなかった理由は、社会保障というと「よくわからない」「関係ない」という思い込みがあり、そもそも理解しようなどと思ったことは一度もなかったことにあります。しかし、読み始めるとそんな先入観はすぐに払拭されることに。書名を「教科書」としているだけに、平易な言葉で、たくさんの図表を使いながら、明快かつ説得力ある論旨で話が展開されているため、ひきこまれるように読んでしまいました。

「社会保障は社会の安定を支えるだけでなく、一人ひとりの自己実現を支え、それを通じて社会の活力や経済の発展を支えている」「社会保障の目的は、落ちこぼれた人間をつくらず、誰もが常にプレーヤーとして社会の中に存在している社会をつくること、自分の尊厳を守り希望を持って自立して生きていける社会をつくることにある」といった話は、まさに目から鱗でした。
また日本の「皆保険」制度は世界に類がなく奇跡的なものであり、これが社会の安定と経済の発展を支えていること、社会保障は重要な産業であること、年金が地域経済を支えていることなど、本書で初めて知ることは実に多くありました。これまで会社から保険料改定の通知があるたび、また負担が増えるとブツブツ言っていましたが、アメリカの医療制度のことを考えるとそんな不満は言えなくなります。

少子・高齢化、人口減少が続くなか、経済を発展させ、安心・安全な社会をつくり、また持続可能な社会保障制度を整備するというのは至難の業です。しかし、自分たちだけでなく、次の世代のためにも避けて通るわけにはいきません。その実現には、政治家や官僚に大きな責任があるのでしょうが、私たち一人ひとりも「高い・安い」「もらえる・もらえない」といったことだけに関心を払うのではなく、社会全体が今大きな転換期にあることを自覚し、よく考えていかなければならない問題だと、本書を読んで強く思いました。

今日、安部首相が衆議院の解散を表明し、消費増税分の使途を社会保障だけでなく教育にも広げ、高齢者中心の社会保障から全世代型の社会保障への転換を目指すと述べていました。財政の健全化が遅れるという批判もあるようですが、著者の考えをぜひ聞きたいものです。

読後感(とてもよかった)