えむと、メモランダム

読み散らした本と出来事あれこれ

『幕末社会』を読みました。

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読書ノート2022年No.4は、『幕末社会』(著者 須田 努/岩波新書/初版2022年1月20日)

日本史上、幕末の黒船来航から大政奉還まではまれにみる激動の時代。

有名な歴史的事件が目白押しですが、農民や町人といった民衆が表に出ることはありません。

本書は、日本近世史・近代史の専門家で、現在明治大学教授の著者が、幕末期に生きた在地の百姓、若者、女性たちに着目し、幕末社会の様相を明らかにするもの。

まず、江戸時代の政治・社会体制を支えた「仁政」(=幕藩領主による百姓の命と家の相続の保障)と「武威」(=日本型華夷意識を基盤にした武力信奉)について概説。

そのうえで、天保から慶応までの幕末期を四つの期間に分け、政治の動きを追いながら、百姓一揆や騒動、地震にコレラ、在村剣術、農兵、個性的な女性といったトピックを取り上げ、動揺する社会と、人々の動きを、ありありと描いています。

この時代の出来事といえば、政治的な話が多いだけに、在地社会から見る歴史は新鮮で刺激的。

「仁政」が揺らぎ、「武威」が失墜していくなかで、各地で起きた一揆や騒動の顛末、自己主張する若者たちの姿、そして女医で柳田國男の祖母にあたる松岡小鶴や、“勤王ばあさん”の松尾(竹村)多勢子のエピソードなどを興味深く読みました。

なかでも、新しい時代が始まる前の胎動のような、若者たちの行動は印象的。

将来への希望を失い、自己実現の途を暴力に頼って様々な騒動を引き起こしたり、飲酒や遊興にあけくれ刹那的に暮らしたりして、在地社会の秩序や道徳規範を揺るがす存在になっていく者。

また、「博徒」、「悪党」、「蘭学」、「尊王攘夷」、「剣術」など幕末期に形作られた“社会的ネットワーク”に自分の居場所を見つけ、その主役となっていく者。

たとえ自分たちにその自覚がなくても、ほとばしるエネルギーは幕末の社会・政治に少なからぬ影響を及ぼしていて、幕府と薩長の権力闘争だけが、幕末維新の物語ではないことを改めて思い知りました。

ところで本書には、著者が現地で撮影した、本書に登場する出来事や人物に関係する写真が、数多く掲載されています。

写真を見ていると、幕末社会を行き交う、個性豊かな人々の姿がよみがえってくるようです。