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『生涯弁護人 事件ファイル1』と『生涯弁護人 事件ファイル2』を読みました。

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読書ノート2022年No.3は、『生涯弁護人 事件ファイル1』と『生涯弁護人 事件ファイル2』(著者 弘中惇一郎/講談社/初版2021年11月30日/装幀 アルビレオ)

著者の弘中弁護士は、「無罪請負人」とも呼ばれ、数々の世間の注目を集めた裁判で弁護人を務めてきました。

10年ほど前のお昼時、事務所の近くでたまたま姿を見かけ、有名人に出会った気分になったことを今でもよく覚えています。

本書は、弘中弁護士が取り組んだ事件の中から、ご自身の印象深いものを取り上げた「裁判事件簿」。

事件の背景、受任の経緯、検察との攻防、裁判戦略や戦術、事件にまつわるエピソードを記すとともに、それぞれの事件から浮き彫りになる、日本の司法制度の問題点を明らかにしています。

『事件ファイル1』で登場するのは、「村木厚子事件」、「小澤一郎事件」、「鈴木宗男事件」、「マクリーン事件」、「クロマイ・クロロキン薬害事件」、「三浦和義(ロス疑惑)事件」など。

『事件ファイル2』では、「安部英医師薬害エイズ事件」、「下館タイ女性殺人事件」、「小学生交通事故死事件」、「野村沙知代事件」、「痴漢冤罪事件」、「カルロス・ゴーン事件」などが登場。

有名な事件はもちろん、初めて知った事件も多く、そのキャリアには目を見張るばかりでしたが、次々に明かされる事件の裏側にある事実に、興味は尽きませんでした。

中でも印象に残ったのは、検察の国策捜査の凄まじさと、メンツをかけた強引ともいうべき捜査や裁判手法。

村木厚子事件のような“証拠の改ざん”は論外ですが、長期の身柄拘束、供述調書の“作文”、法廷での“想定問答集”の作成と強要、マスコミへの情報リークによるイメージ操作。

なりふり構わず、何が何でも有罪に持ち込もうとする姿に、気持ちは重くなります。

また、たとえ有罪にならなくても、地位から追い落とせば目的達成という、国策捜査の恐ろしさは底知れぬもの。

カルロス・ゴーン氏の海外逃亡は大騒ぎになり、検察は表向き保釈が許されたことを憤慨していましたが、日産とルノーの経営統合が立ち消えになれば、それで十分なのかもしれません。

ただ弘中氏が言うには、日本人は、異分子排除の願望が強いため、「どんな方法でもいいから悪者は処分して隔離しろ」という思考に陥りがち。

そのためマスコミも、警察・検察からリークされた情報を垂れ流して、大衆が喜ぶ、“悪者探し”を優先。

検察の独断専行の裏には、そんな不都合な事実があることを知り、考えさせられました。

弘中氏によれば、弁護士とは「国家権力と対峙して、人権抑圧されている人の側に立ち、その人の権利を擁護する人」のこと。

刑事弁護では、「強大な国家権力の不正・不当なやり方から被疑者・被告人を守り、ありとあらゆる手を尽くして弁護すること」が役割。

本書では、その使命のもと、予断・偏見・先入観を持たず、自分の頭と足を使って真実を明らかにし、依頼人に寄り添い最善を尽くす弘中氏の姿があります。

カルロス・ゴーン氏をはじめ、世間から悪人扱いされた人の弁護も行ってきたので、弘中氏にネガティブなイメージを持っている人もいるようですが、本書を読めば、それが誤解であることがわかるはずです。

ところで、本書で一番驚いたのが、「マクリーン事件」のこと。

憲法が試験科目の資格試験などでは、必ずと言っていいほど勉強する事件ですが、まさか弁護士になりたての弘中氏が弁護人だったとは、思いもしませんでした。