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『象徴のうた』を読みました

象徴のうた

2019年41冊目の読書レポートは、『象徴のうた』(著 永田和宏/文藝春秋 初版2019年6月20日)。書店で目にして手に取りました。

著者の永田氏は、言うまでもなく日本を代表する歌人の一人。宮中歌会始の選者も務めています。

本書は、2018年1月から2019年3月まで、共同通信社を通して全国の地方紙30紙に63回にわたり配信された著者の連載コラム『象徴のうた 平成という時代』をまとめたもの。

平成の天皇・皇后両陛下が詠まれた数々の歌を取り上げ、両陛下の歩まれた道をたどりながら、御製御歌にこめられている〈象徴〉としての思いを読み取っていくものです。

著者は、「即位したときから〈象徴〉であった初めての天皇陛下である平成の天皇は、“象徴とは何か”、という誰も答えを持たない難問に正面から向き合い、自らの問題として一貫して考えて来られた」。

そして、「平成の天皇が、手探りで、試行錯誤しながら模索してこられた〈象徴〉とは“人々に寄り添い、そして忘れないこと”であり、両陛下は、被災地慰問や国内外の戦地慰霊の旅を通じて〈象徴〉としての意味を確立され、その〈象徴〉としての思いは、両陛下の歌にこそ顕れている」と語っています。

大きな災害が多かった平成の時代、被災地を慰問する両陛下の姿を幾度となく目にしました。また、日本国内だけでなく、サイパン島やペリリュー島を訪ねて犠牲者の霊を弔っている姿も忘れられません。

本書を読んで初めてその真の意味を知ることとなり、詠まれている歌から(もちろん著者の解説があってこそですが)「人々に寄り添い、そして忘れないこと」という両陛下の深い思いに気づかされることになりました。

歌には、両陛下の相聞歌や家族のことを詠まれたものもあります。一人の人間としての率直な思いにも触れることができ、そこにも〈象徴〉としての姿を見るのですが、お二人の間にある信頼と愛情の強さは何より心に残るものでした。

歌は心にしみるものばかり。そのなかで特に印象に残ったのは次の二首。

「年まさる二人の孫がみどり児に寄りそひ見入る仕草愛らし」
平成十四(2002)年 天皇

本書では天皇陛下の日常的な歌は少ないのですが、これは秋篠宮家の眞子さまと佳子さまが、生まれたばかりの愛子さまを見ている様子を詠った一首。普通のおじいさんと変わらない姿がうかがえ、心が和んできます。

「天狼(てんろう)の眼も守りしか土(つち)なかに生きゆくりなく幼児(をさなご)還る」平成十六(2004)年 皇后

新潟中越地震で起きた土砂崩れ現場で、土砂に埋まった車から92時間ぶりに奇跡的に救助された2歳児を詠った一首。私は、たまたま新潟の実家にいるときに地震にあったのですが、テレビで見ていたこの救出劇の様子がまざまざと蘇り、胸が熱くなりました。

時代は平成から令和へ。けれど両陛下の思いはこれからもずっと生き続けるに違いありません。