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『東海道ふたり旅 道の文化史』を読みました

東海道ふたり旅: 道の文化史

2019年18冊目の読書レポートは、『東海道ふたり旅 道の文化史』(著 池内 紀/春秋社 初版2019年1月7日)。書評サイト『HONZ』に掲載された成毛眞さんの書評を読んで手に取りました。

著者はドイツ文学者ですが、エッセイや評論などの著者も多数あり、成毛さんの言葉によると、「エッセイの名手」だそうです。

本書は、著者が歌川広重の浮世絵『東海道五十三次』を読み解き、東海道を江戸・日本橋に始まり京・三条大橋までたどりながら、浮世絵の見どころ、宿場それぞれの来歴やエピソードを紹介し、さらに江戸時代の様々な制度・文化・風俗などについて紐解いたエッセイ。

単なる浮世絵の解説や紀行ではなく、一枚の浮世絵から、社会、経済、歴史、技術へと話は広がっています。

本書を読んでまず感心したのは浮世絵の解説です。海外でも有名な作品とはいえ、これまでじっくり見たことはありませんでした。

しかし、著者の深い“観察”をもとにした話によって、街道の風景がありありと目の前に現れ、旅人や庶民たちの話声、旅籠のざわめき、馬のいななき、川を流れる水の音、降りしきる雨の音が聞こえてくるよう。広重の世界に、いっぺんに引き込まれてしまいました。

そして宿場ごとに繰り広げられる話の数々は、面白いものばかり。
平塚では「飛脚制度」、箱根では「関所」の話(関所破りの話もあります)、原では民間の植物園「帯笑園」のこと、藤枝では「問屋場・助郷制度」、島田では「川渡し」について、袋井では「タバコ」の話、浜松では「高札」について、藤川では「お寺の役割」、岡崎では「橋」について、池鯉鮒では「馬」について、庄野では「ふんどし文化」(著者が冷え症を心配しているのには笑ってしまいました)、土山では「大名行列」のこと、大津では「牛車」について・・・。とにかく多彩で、興味は尽きません。

また、各地の名産・名物の話や著者が宿場を実際に訪ねたときの話も楽しく、街道を通して、江戸時代を深く知ることができました。

ところで本書を読み始め、すぐに必要になったのは『東海道五十三次』の作品そのもの。本書でも図版は多数掲載されていますが全部カラーではありません。また『東海道五十三次』には「保永堂版」、「行書版」、「隷書版」の3種類があって(今回初めて知りました)、著者の話には本書で掲載されていない版が登場することもあり、そこで本書を読むときは、3種類すべてを見ることができるウィキペディアを開くことから始めていました。

著者にとってふたり旅の相手は広重かもしれませんが、私の相手はウィキペディアだったかもしれません。

五十三次を自分で歩くことに挑戦する人や、五十三次をめぐるツアーもあるようです。私も本書を読んで、歩くことはともかく、55カ所(53の宿場プラス日本橋と三条大橋)を訪ねてみたいという気持ちが大きく膨らんでしまいました。