えむと、メモランダム

読み散らした本と出来事あれこれ

『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』を読みました。

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2021年5冊目の読書レポートは『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』(著 宮崎伸治/三五館シンシャ//初版2020年12月1日)。

今の仕事の関係で、「出版界の暗部に斬りこむ天国と地獄のドキュメント」という帯コピーが気になり、手に取りました。

本書は、かつて出版翻訳家として活躍していた著者が、そのデビューから足を洗うまでの顛末(「天国」と「地獄」)を綴ったもの。

著者は、20代で出版翻訳家の道を考え始め、大学職員、英会話講師など英語に関係する仕事を重ねながら、イギリスの大学院にも留学。

その後念願叶い、出版翻訳家となってベストセラーも生み出し、30代の10年間には50冊もの単行本を手がけるほどになります。

ところが、ある出版社の仕事をめぐってトラブルとなり、著者は本人訴訟を提起。

結局、出版社が非を認めたことで裁判は和解となりますが、これが引き鉄となって著者は精神的に疲弊し、出版翻訳家としてのキャリアに見切りをつけてしまいました。

本書では、この裁判のことだけでなく、出版の延期や中止、印税のカットといった出版社との数々のトラブルと、そこで繰り広げられた編集者たちとの生々しいやり取りが明らかにされています。

出版社からすると、予定通りに本が出版できないというのは、決して珍しいことではありません。

本書に登場する出版社・編集者も、著者には本当のことが言えないほどの“深い事情”を抱えていたのかもしれません。

ただ例えそうであったとしても、本書を読む限り、出版社の身勝手な姿勢には疑問を感じることが多く、著者がその理不尽さに憤慨するのも無理ないと思ってしまいます。

著者の話からすると、事情はどうあれ、編集者が著者の身になって、もう少し誠意をもって接していたら、事態は変わっていたはず。

本書の読者の感想には、出版業界に対するネガティブな意見が多くみられるだけに、とても残念です。

もちろん、出版社や編集者が全部同じということはなく、本書のエピソードも最近のものではありません。

けれど、出版社・編集者には、本書に書かれている出来事を他山の石として、またライター、デザイナー、装幀家など出版を支えている人たちとの関係も大切にして、同じような汚名を着せられないよう、心してほしいものです。

ところで、本書では「出版契約書」を締結することの重要性が語られています。
また出版契約書については、「先に契約書を交わさないのはおかしい」という声もよく聞かれます。

確かに、日本書籍出版協会の調査によれば、著者がフル活動していた頃の出版契約書の締結率は、1997年46.6%、、2005年59.6%と今一つでした。

しかし、その後2011年には77.2%となり、恐らく現在はもっとアップしているはず。

一方、契約書が遅くなるのは、決して出版社がいい加減というわけではなく、契約書に記載する、定価、発行部数、発売日などがすぐには決まらないことが影響しているから。

この二つのことは、声を大にして言いたい気分です。