えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『筑摩書房 それからの四十年』を読みました

筑摩書房 それからの四十年 1970-2010 (筑摩選書)

2017年17冊目の読了は、『筑摩書房それからの四十年』(永江朗/筑摩選書 初版2011年3月15日)です。これも先ごろ読んだ『言葉はこうして生き残った』で紹介されていた本で、同業に携わる者としてぜひ読んでみたいと思い、手にとりました。
筑摩書房では、創業30周年にあたる1970年に「筑摩書房の三十年」が非売品として配布され、創業70周年にあたる2010年に本書が出されたそうですが、2冊とも筑摩選書のラインナップに加わっていて、社史でありながら一般の人も読めるようになっています。

本書は、同社が苦境に追い込まれていく60年代の様子から書き起こされていて、業績が先細りしていく中での打開策の不発、突然の倒産、そして苦闘しながら再生していく姿を、社史らしく社内資料や関係者の証言をもとに描いたものです。
普通、社史は無味乾燥で、商業出版物になることなど考えられませんが、本書では、社員が事業の再構築に懸命に取り組んでいく様子はもちろん、あまり表に出したくないような内情が明らかにされたり、また同社を思うがゆえの著者の厳しい指摘などもあったりして単なる資料ではなく、良質な物語となっています。

去るも地獄、残るも地獄といった厳しい状況から、新しい道を切り開いていく過程は、興味深いものがありましたが、倒産したときに、書店、取次、作家・著者が、同社の支援に立ち上がった場面は、とても印象的で心に残りました。恐らく、長年の本づくりに対する良心的な姿勢がそのような動きにつながったのでしょう。同じようなことが起きたときに、果たしてわが社には手が差し伸べられるのか、考えてしまいます。

本書の「まえがき」で、“折からの出版不況の只中”という言葉がでてきます。それから、7年が経っていますが、出版業界の市場規模は縮小が続き、不況を抜け出す兆しはありません。それどころか、出版文化というのどかな風景の中に、否応なく市場原理的なものが持ち込まれ、業界の混迷は深まるばかりといった感じです。

多様な出版文化は、日本が誇るものであり、また守るべきものです。大切なものが朽ち果てるようなことがないよう、良心的な本づくりが、これまで以上に求めれているのだと思います。

読後感(よかった)