2021年21冊目の読書レポートは『「暮し」のファシズム 戦争は「新しい生活様式」の顔をしてやってきた』(著 大塚英志 /筑摩選書/初版2021年3月15日)。
書店で目にして、手に取りました。表紙のガスマスクをつけて行進する女子学生の写真が強烈です。
本書は、作家で、国際日本文化研究センター教授の著者が、コロナ禍の中提言された「新しい生活様式」と、戦前、近衛内閣が唱えた「新生活体制」を重ねあわせ、国民を戦時体制に協力させるため行われた “戦争の顔をしていないプロパガンダ”について自らの考えを述べたもの。
戦後、『暮らしの手帖』の編集長となる花森安治が関わった婦人雑誌、太宰治が女子学生の日記を下敷きに書いた小説、詩人・尾崎喜八の随筆や詩、戦時下の新聞まんが、そして女学校の制服などを軸に、暮らしの中にファシズムを忍びこませたプロパガンダの正体を明らかにし、今の社会に警鐘を鳴らしています。
ファシズムというと、日本では大政翼賛会が思い起こされ、国の方針が強制させられるイメージが強くあります。
ところが著者は、「暮らし方の工夫」、「隣組の生活様式」、「日常生活での科学的思考の実践」といった、日々の暮らしや女性をねらったプロパガンダ(著者曰く「女文字」のプロパガンダ)によって、戦時体制への“自発的な協力”が促されていったと指摘。
花森、太宰、尾崎、そして『赤毛のアン』で有名な村岡花子といった“プロパガンダの担い手”たちを批判しています。
雑誌記事、文芸作品、漫画などを詳しく分析し繰り広げられる著者の主張は、興味深いものがありましたが、担い手たちが、プロパガンダであることをどれほど意識していたのか、はっきりとはわかりません。
とはいえ、戦時体制の中、手を替え品を替え、銃後の生活のあるべき姿が巧みに喧伝されれば、人びとが「自分もやってみよう」と思うのはありそうなこと。
結果として、知らないうちに、ファシズムの片棒を担ぎ、戦争に自発的に協力している格好になっていったとも言えそうです。
命にかかわる「新しい生活様式」と、大政翼賛会の「新生活体制」をざっくり一緒にするのは、少し違和感もありますが、日本人が同調圧力に屈しやすいのは事実。
深く考えることなく、「みんながやっていることだから」とか、「何か言われるのが嫌だから」といった理由だけで、行動することはよくあります。
けれど、そこには大きな落とし穴があり、思いがけない事態を引き寄せかねないことを、忘れてはならないでしょう。
「右へ倣え」の号令に潜む危険性を、漫然と見過すわけにはいきません。
ところで、本書を読んで「ぜいたくは敵だ!」、「欲しがりません勝つまでは」といった戦争標語に、花森安治が関係していたことを初めて知りました。
著者は、花森を批判的に論じていますが、私のイメージも少し変わってしまいました。