えむと、メモランダム

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『幸福の増税論ー財政はだれのために』を読みました

幸福の増税論――財政はだれのために (岩波新書)

2018年81冊目の読了は、『幸福の増税論ー財政はだれのために』(著 井出英策/岩波新書 初版2018年11月20日)です。書店で目にして手に取りました。

消費税の改定まで1年を切り、政府が進める増税対策や軽減税率の話題が目につくようになってきました。ここまでくると、よほどのことがない限り来年には税率が10%となり、私たちの家計に影響を及ぼすことは間違いありません。

本書は、財政社会学の専門家である著者が、この消費増税を財源として、「みんなでみんなのくらしを支え合う」という社会(財政がすべての命とくらしを保証する社会)の実現を提言するものです。

著者はまず、日本に根付く「勤労と倹約の美徳」が人々に自己責任を押し付け、社会に重くのしかかっていることを示します。

そして、過剰な自己責任感と経済の成長を前提とした社会モデルの崩壊によって生まれた今の日本の姿ー「価値を分かち合うことができず、利己的で孤立した“人間の群れ”と化しつつある社会」、「あらたな線引きにより分断が進む社会」ーを様々な資料・データなどをもとに明らかにします。

他者の痛みに関心を寄せず、「共存感」がゆらいでいる。弱者への給付が、“自分は弱者だとは思っていない弱者”から批判され、不満や軋轢が生まれる。

生活水準が低下し、将来への不安が渦巻くなか、日本の社会は深刻な状況に直面していると思わざるを得ません。

著者はこのような冷たい社会を憂い、命とくらしが保証された温もりある社会を回復すべきだとし、本書では消費税を使った「ベーシック・サービス」という考え方を示し、その実現により社会を変革することを訴えています。

この「ベーシック・サービス」は、お金を渡す「ベーシック・インカム」と違い、医療、介護、教育、子育て、障がい福祉といったサービスを、所得制限をはずし、必要な人すべてに提供するというもの。弱者を助けるのではなく、弱者を生まないことを目指すものです。

高負担・高福祉の北欧型社会と類似しているものですが、著者はこれにより、中高所得者は負担者から受益者に変わり、低所得者は「社会の目」「他人の目」から自由になり、所得の平等化だけでなく、人間の尊厳を平等化するとしています。

しかし、これまでの日本では考えられない政策。おそらく様々な点で批判・異論もあるでしょうし(本書では想定される批判・疑問に対する著者の見解も論じられています)、そもそも、これほどの改革が一朝一夕で実現するとは思えません。

ただそれでも、個人的には著者の考えに共感するところは多く、“分断と対立が進み、他者への嫉妬と憎悪がおおい尽くす社会”ではなく、著者が描く“頼りあえ、誰も助けなくてもすむ社会”に大きな魅力を感じます。単なるアイデアに終わらないことを期待せずにはいられません。

私たちはどのような社会を望むのか、どのような社会を次の世代に残すのか、本書を読んで大きな課題を突きつけられた気がしました。

読後感(考えさせられた)