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『ヒト、犬に会う 言葉と論理の始原へ』を読みました

ヒト、犬に会う 言葉と論理の始原へ (講談社選書メチエ)

2019年40冊目の読書レポートは、『ヒト、犬に会う 言葉と論理の始原へ』(著 島泰三/講談社選書メチエ 初版2019年7月10日)。書店で目にして手に取りました。

本書は、動物学者の著者が、人間と犬の特別な関係から、言葉、心、文明の成り立ちについて論じたもの。

犬の進化する過程やオオカミの生態、東南アジアで起きたとするオオカミの南下集団(イヌ)とホモ・サピエンスの南アジアからの北上集団との出会いの様子、犬の持っている驚くべき能力、「ことば」の誕生と文明との関係、そして「犬の伊勢参り」といったエピソード。

それらを通して、人間と犬は運命共同体であり、犬は、人間の心の特性の誕生と言葉の起源にかかわり、また文明の誕生を促したという事実を解き明かしています。

動物の起源や進化を探り、ヒトとイヌの歩いてきた道をたどり、ことばや文明の意味を考える。人間と犬の話に留まらない奥行のある話は、ときに哲学的で独特なもの。不思議な魅力にあふれています。

そのなかで特に印象に残ったのは、やはり犬の能力。「犬には恐怖も匂うし、凶暴さも匂う」、「犬には弱みも強みも悲しみ喜びも臭いで嗅ぎ分ける、人間には理解できない能力がある」、「犬は世界を嗅ぐ手段を気体と液体で二重に持っている」、「犬は水の味を感じる味蕾がある」、「秒単位より短いレベルで犬は人間を観察してその仕草を理解している」、「人間の知性的判断より、犬の感情的判断が正しく優越していることがある」…。

驚くことばかりでしたが、「犬とともにいるということの意味は、人間にとって家畜と暮らすというレベルではなく、心の共有関係に達する」という著者の言葉の意味がよくわかります。「盲導犬」はいても「盲導猫」は絶対にありえません。

また、人は犬と視線を合わせるだけで愛情ホルモンとも呼ばれる“オキシトシン”を分泌するそうです。見つめるだけで幸せを感じる。ヒトとイヌとの出会いは、まさに運命的なものに違いないでしょう。

今わが家の中心は、今年10歳になるオスのマルチーズ。10年も一緒にいると、しぐさや表情から何となく気持ちが読み取れるようになり、犬の方も家族の話す言葉のいくつかに反応します。

もうれっきとした家族の一員なのですが、本書を読んで、ますます大切な存在に思えてきました。