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『エリザベス女王 史上最長・最強のイギリス君主』を読みました

エリザベス女王-史上最長・最強のイギリス君主 (中公新書)

2020年9冊目の読書レポートは『エリザベス女王 史上最長・最強のイギリス君主』(著 君塚直隆/中公新書/初版2020年2月25日)。書店で目にして手に取りました。

世界に数ある王室の中でも、イギリス王室ほど注目度が高い存在はないでしょう。

最近ではヘンリ王子とメーガン妃の王室離脱問題が大きなニュースとなりましたが、エリザベス女王の下した決断も耳目を集めました。

本書は、そのエリザベス女王の人生を、イギリスの現代史を辿りながら綴ったもの。

突然の父の死により、わずか25歳で王位を承継。それから68年間、多くの困難や試練に遭遇しながらも常に国家と王室のことを考え、精力的に活動する姿が様々なエピソードとともに描かれています。

昨年、君塚先生の『立憲君主制の現在―日本人は「象徴天皇」を維持できるか』(新潮選書)を読み、イギリス国王はイギリスの政治、外交に強い影響力を持っていることを知りました。

本書はそれを具体的に示すものともいえ、歴代の首相選定に深く関わる、こじれた外交関係を修復する、イギリス連邦加盟国の結束を呼びかける、南アフリカのマンデラ氏釈放に陰ながら手を貸す…。

女王の力は大きく、第二次世界大戦後のイギリスのプレゼンス保持に大きな役割を果たしてきたことがよくわかります。

ただ決して力を振り回すのではなく、深い洞察力で相手のことを考え、目配りしながら振る舞うところが、エリザベス女王の本領に違いありません。

「女王陛下はすべての人を包み込んでしまうくらいの特大級の帽子を持っている」というイギリス外相の言葉は女王の人間性を伝えるもので、心に残りました。

その一方、王室をめぐるトラブルは、女王といえども大変です。

ダイアナ妃の事故死めぐる対応で国民から非難を浴び、王室の支持率が急落するとは、思ってもいなかったでしょう。

しかしその後、国民の批判に耳を傾けて様々な改革に着手。また王室の広報も工夫。その結果国民の支持は回復しますが、国民と向き合うため、Webサイトはもちろん、ユーチューブ、ツイッター、インスタグラムまで駆使するのは、時代を象徴するもので、女王の手腕とともに目を引きました。(先日も、ツイッターを使って、新型コロナに対する女王の声明が発表されました。)

伯父のエドワード8世の「王冠を賭けた恋」がなければ、就かなかったかもしれない王位。女王が誕生したのは運命の悪戯だったかもしれません。

けれど本書を読んで、その巡り合わせは、第二世界大戦後のイギリスにとって“最大の幸運”だったと思わずにはいられませんでした。

ところで本書の「あとがき」によると、君塚先生は本書の執筆にあたり、王室文書館の使用・閲覧の許可をエリザベス女王からいただいたそうです。

内容とは関係ないことですが、ちょっと驚きました。